JASPUL-CILC

UPDATE:2003/03/01

学術図書館環境における協力と連携:成功への鍵

デイヴィッド・S・フェリエロ
図書館担当教務副部長兼図書館長
デューク大学
米国ノースカロライナ州ダーラム

私立大学図書館協会国際図書館協力シンポジウム
関西学院大学
2001年5月11日
(日本語訳 中元 誠)

 

米国における図書館協力は比較的最近の現象です。それは1876年のライブラリージャーナルの初号においてマサチューセッツ州ウスターの公共図書館館長であったサミュエルSグリーンが以下のように述べたことから始まります。

「図書を短期間互いに貸し出すような合意が可能となるならば、それはわれわれ参考図書館にとって多大な利便性をもたらすことになります。自身のコレクションにないものであっても、他の図書館の目録にみいだされた図書をもとめる利用者は存在します。」

図書館が遠方の個人にたいして図書を貸し出すことは普通に行なわれていた一方で、米国においては、図書館が[機関として]そうした図書を借り受けることの可能性については以前より一般的にあまり議論されてきませんでした。

グリーン氏は続けます。

「おそらく、非居住者の一定の人々に図書の貸出を認めるこれらの図書館はそうした人々の居住する地域の図書館をつうじた申込みを希望しているはずです。個人にたいして図書を送付するかわりに、その図書を申込み者にたいして配送してくれる[もよりの]図書館にたいして送付し、当然、その図書館が自身の蔵書と同じように大切にその図書をとりあつかってくれることを望んでいるはずです。」
グリーン氏のこの示唆は同時代の図書館関係者を魅了し、図書館相互貸借が制度として誕生するところとなりました。この話題はそれにつづくライブラリージャーナルの各号を埋め始めることとなります。1891年にはグリーン氏が米国図書館協会の会長となります。彼はその就任演説においてワシントンの公衆衛生局図書館が(当時は貸出をしていなかったのですが)他の医学、大学図書館にたいして相当の貸出をしていることにたいし感謝の意を表明しました。

1892年には、図書館相互貸借は、その乱用が指摘されるほどごくあたりまえのものとなっていました。メルビル デューイは、1892年7月にライブラリーノートにこのように書いています。

「すこし前までほとんど知られていなかった図書館相互貸借はいまでは日常業務となっています。人に役立ちたいとする気持ち、図書館を利用してほしいとする精神が興隆をきわめております。私たちは、はじめからそうであったように、そして現在もこの精神において真摯なチャンピオンでありますが、注意を喚起することも必要です。ひとりの人へのサービスに熱心なあまり、多くの人々の権利を損なう図書館も存在します。図書館までやってくることがかなわない研究者たちに役立とうとするあまり、これらの図書館はしばしば研究者の単なる怠惰で傲慢な利己心を助長する結果となっているのであります。」

デューイ氏は、図書館のこうした寛容をたくみに利用するものがいると感じていました。

「広く認識されていることですが、そこにしかないという図書を所蔵する図書館は、その図書を紛失することのないよう最大限の注意を払うべきであります。そしてまた、そのような図書には、ともするとこんなことがおこります。すなわち、ほしいものは持って来させるといった図々しさを持ち合わせない遠慮深い学者がわざわざ遠くから図書館にやって来てみると、物がない。実は探していた図書は、他の州にいる遠慮深くない学者がいながらにして特権を享受して借り受けてしまった[遠慮深い学者は権利を享受できなかった]というようなことです。運命の皮肉というべきか、何年も使われずに書架にあった図書が、いったん出庫されるやその本への利用希望が戻る前に殺到するということがあります。ようするに、図書館相互貸借をおしすすめるその精神はたかく評価されるべきだが一方で、そうした便益が乱用されてひとりの利用者へのサービスが人々の利用を阻害しないように注意することが必要となります。」

デューイ氏の懸念にもかかわらず、[図書館相互貸借]業務は拡大していきました。1896年にボストン公共図書館は他の図書館にたいして63冊の図書を貸し出しました。申し込んだ図書館は借り受けた図書の保全と紛失や毀損の際に相応のペナルティーを科せられることに同意しました。

「この制度は全体として以下の条件にしたがうものとします。(1)もとめられた図書は、申し込んだ図書館の通常の業務範囲をこえるもの、つまり、その図書館が当然に備えるべき図書以外のものであること。(2)申込みは純粋な調査を目的とするものでなければならない。(3)図書は、速達で送付してもかまわない(事故にならない)資料でなければならない。そして、(4)図書は、一時的にそこになくとも貸出館の利用者に不便のかからないような種類のものでなければならない。」

現在、組織的に実施されているほとんどの図書館相互貸借業務に適用されるガイドラインの萌芽をここに見ることができると思います。

1899年の米国図書館協会の総会においてアーネスト リチャードソン博士は、「大学図書館および参考図書館間における相互貸借協力」と題した論文を提出しました。そこにおいて、彼は米国大学図書館における図書の不足を嘆いています。

「最大の欠点は、[必要とされる]図書の大多数が米国において見出せないという事実であります。二番目の欠点は、それら図書がどこにあるのか探し出すことが困難であることです。そして、三番目の欠点は、米国に存在する図書ですらそこにたどりつくために多大な旅行費用を要する点であります。」

図書館間で図書を相互に貸借することによって問題は解決されるかもしれないが、借りるべき図書がどこにあるのかを調べることが大きな図書館にとってもたいへんな重荷となっていたことをリチャードソン博士は示唆しています。彼は、さまざまな地域からの貸出を処理するための分館をもった中央貸出図書館の創設を提案していました。彼の提案は制度としては実現しませんでしたが、議会図書館を中心として、米国に点在する主要な研究図書館が非公式なネットワークを形成したことによって実質的に実現しました。

私が、こうした図書館協力の初期の実例について最初にお話した理由は、図書館協力が米国においては比較的あたらしい現象であることをお示ししたかったからにほかなりません。それにしても、そうした時代からグローバルな情報社会とされる現在まで長い道のりをたどったとは思いませんか?! OCLCやRLINなどの書誌ユーティリティーやいくつかの国立図書館では電子媒体による資料の所在確認サービスによってどの図書館が図書を所蔵しているか簡単に調べることが現在では可能となっています。また、個々の貸出処理も洗練されたソフトウェアによって管理が可能となっています。州規模での協定によって利用者が直接、他の図書館にたいして申込みもできるようにしている図書館もあります。

このように図書館相互貸借は図書館協力の祖父母であるといえますが、一方で、他の形態での協力と連携は、私たちの経験ではより新しい、まだ形成途上にあるとすらいえるかもしれませんが、多くの面をもっています。

いま、私たちはふたつのまったく異なる協力・連携関係の環境にあるわけですが、私は、今回のシンポジウムのテーマについて私がもっともよく知るふたつのコンソーシアムについてお話することが有効かもしれないと考えました。米国における図書館協力・連携にむけた努力の共通点についてコメントを加えたうえで、そうした合意の成功した側面についてお話したいと考えています。そして、最後に本当の意味での協力を阻害するいくつかの要因についてお話してしめくくりたいと思います。図書館協力はあたかも不自然な行為であるかのように説明されてきましたが私はそれがなぜなのかをご説明したいと考えています。

今日の目的は、皆さんを膨大な情報で圧倒したり、うんざりさせたりすることではありません。むしろ、適切な情報によって皆さんの思考を刺激したいと思います。また、質問の時間を十分にとりたいと思います。私は、いつもこうした会議においてはフォーマルなプレゼンテイションからより質疑応答からより多くのものを得ています!

ボストン図書館コンソーシアム
私はマサチューセッツ工科大学(MIT)のいくつかの図書館に31年間勤務しておりました。そこでは相互貸借やレファレンスを含む幅広い業務を担当しました。1972年にはMITのボストン図書館コンソーシアムへの参加を調整するための小さな委員会のメンバーとなりました。このことが結果として24年にわたる協力関係の維持・発展にかかわる経験を私にあたえてくれることになりました。

ボストン図書館コンソーシアムはメンバーの各構成機関の研究・教育のさらなる向上を集団的にはかるために、人的資源および情報資源の共有を目的として1970年に設立されました。このコンソーシアムは資料の共同収集、電子媒体資源へのアクセス、紙媒体等の物理的資源へのアクセス、そして図書館相互貸借やドキュメントデリバリーの促進などのプログラムをつうじて利用者へのサービスの向上と資源の共有を支援しています。マサチューセッツ州ボストン地域を中心として16機関により構成されています。これらの機関には、ボストンカレッジ、ボストン公共図書館、ボストン大学、ブランダイス大学、ブラウン大学、海洋生物学研究所、ウッズホール海洋学研究所、マサチューセッツ工科大学、ノースイースタン大学、マサチューセッツ州立大学、タフツ大学、マサチューセッツ大学の五つのキャンパス、ウェスリーカレッジなどが含まれます。ボストンの教職員学生は、こうした膨大なコレクションへのアクセスが可能となりきわめて恵まれているといえます。

参加機関全体の所蔵数はおよそ2700万冊におよびます。

(ハーバード大学がボストン図書館コンソーシアムになぜ参加していないのか怪訝に思われるかもしれません。ハーバードの96箇所におよぶ図書館は自前のコレクションから利用者の情報ニーズを十分に満たしており、[ボストン図書館コンソーシアムのような]図書館間の協力にたいしてあまり必要性を感じていませんでした。しかしながら、1996年になって初めて教職員、大学院学生を対象とした互恵的な相互貸借関係についてハーバードとMITのあいだで交渉がもたれました。)

ボストン図書館コンソーシアムでは、すべての参加機関におけるすべての構成員(教員、大学院学生、学部学生、そして職員)による直接的な貸出サービスにくわえて、以下のような活動を行なっています。

図書館相互貸借の促進:参加機関は、他の参加機関にたいして特別なILLサービスを提供する。ここには、他の参加機関からのILL申込みにたいする優先的な処理の実施、複写物の電子媒体による送付、図書や無料とした複写物の宅配便による配送などをふくむ。

共同収集のための合意:参加機関は、主題コレクションの構築に関して分担と共同関係構築を推進する。印刷資料にかかわる最近の合意は、アジアにおける経済・経営関係継続刊行物、生物学関係継続刊行物の保管、化学関係継続刊行物の保管、映画研究関係雑誌、ラテンアメリカ系女性研究、神経科学関係継続刊行物の保管、そしてスモールプレスによる詩集などとなっています。

電子媒体によるコレクションの共同構築:ボストン図書館コンソーシアムは、参加図書館が可能とされる最低限の価格負担と利用者による最善のアクセス条件を出版社・提供企業から獲得するために、電子情報媒体資源利用のための共同ライセンス契約にかかわる交渉をすすめています。電子情報媒体資源の利用とアクセスはライセンス契約の内容によって個々に異なりますので、それぞれについて適切な権利を獲得することが、コンソーシアムの重要な役割のひとつとなっています。

逐次刊行物総合目録:16機関によって所蔵される逐次刊行物総合目録に収録されたタイトル数は23万5千タイトル以上におよびます。最近の参加機関となったブラウン大学からまもなくタイトルが追加され、統計では26万タイトルとなる予定です。

利益グループ:ボストン図書館コンソーシアムは参加機関の職員にたいしてほかの職員との会合や、情報、経験の共有、相互の関心事にかかわる課題の研究などの機会を提供しています。こうしたグループは、特別な話題や業務領域を中心に形成され、話題のいくつかの側面をとりあげる非公式な会合などが開催されています。最近のグループとしては、美術、アジア地域における経済・経営、科学、貸出管理、配送システム、政府刊行物、ILL、音楽、神経科学と生物学、詩学、レファレンス管理者、そして女性研究などがあります。

職員の育成と研修:第一火曜セミナーのシリーズは参加機関の図書館職員にたいして、図書館にかかわる最近の課題について一同に会して討議する別の機会を与えています。報告につづきグループ討議がおこなわれるセミナー形式ですすめられます。最近の話題は、「バーチャルカタログの利点」「Webstars:工学」「大学図書館館長の役割」などです。これらにくわえて、業務管理にかかわるすべてのメンバーにたいする研修プログラムが参加図書館にたいして提供されています。

雇用機会:コンソーシアムのウェッブサイトではつねに最新の参加図書館からの求人情報が提供されています。地域的に近接していることもあり、図書館間でおおくの移動が存在します。

ボストン図書館コンソーシアムの運営は理事長、副理事長、事務長とひとりのプログラム職員のフルタイムの職員によって行なわれています。参加図書館の幹部職員によって構成される理事会および経営協議会がコンソーシアムを管理運営しています。コンソーシアムの実質的な仕事は参加図書館の代表から構成されるいくつかの委員会においてすすめられます。これらの委員会には、共同収集、情報技術、職員研修、パブリックサービス、そして逐次刊行物総合目録などがあります。

トライアングル研究図書館ネットワーク
ノースカロライナ州のリサーチトライアングルにおける学術研究図書館の協力はデューク大学とノースカロライナ大学の総長によって知的協力委員会が創設された1933年にさかのぼります。さらに、大学間協力にかかわる1935年プログラムのなかで、図書館協力は、もっとも協力で持続的な構成要素となりました。のちにこの協力関係はさらに拡大されノースカロライナ州立大学の図書館とノースカロライナ中央大学の図書館も参加することとなりました。そこでの協力プログラムは歴史的に、コレクション構築の分担と資源の共有から構成されていました。

資源の共有をすすめるために技術的、組織的な支援体制を構築することを目的としてトライアングル大学図書館協力委員会(TULCC)が組織された1977年、図書館協力はふたたびいきかえりました。トライアングル研究図書館ネットワーク(TRLN)の名前が採用されたのは1980年のことでした。最初の覚書がかわされたのが1984年、改定されたのが1987年です。最初の合意においては、オンラインカタログにかかわるネットワークの維持・発展といったむしろ限定的な目標に焦点が合わされていました。1987年の改定によって、目標が拡大され、コレクションの共同構築、資源の共有や技術革新といった伝統的なプログラムを、技術進歩にあわせた利用者の情報アクセス向上のために組織的な資源投入にむけた協力・連携というあたらしい概念に統合することがうたわれました。

これら4つの大学の所蔵数は1350万冊におよびます。

トライアングル研究図書館ネットワークの使命は協力をつうじて、豊かで比類なき知識環境を創造するために私たち研究図書館のもつ財政的資源、人的資源そして情報資源を整理統括することにあります。この知識環境によってそれぞれの大学がかかげる教育、研究、そしてサービスの提供という使命をさらに向上させることが可能となります。資源投入、統合によってTRLNは、それぞれの図書館やキャンパスネットワークをつうじて情報資源の範囲と利用者にたいするサービスの拡大はもちろんのこと、新しい図書館情報サービスの創造や、時期をえた利便性の高い情報アクセスの提供、情報とサービスの提供能力の向上を可能とする戦略的な連携の可能性の追及、図書館運営や情報提供にかかわる協力関係を率直に話し合えるフォーラムの提供、そして、これらの目的を支援する外部資金の探求も実現可能となると期待しています。

TRLNは、幅広い利用者にサービスを提供する多様な図書館間での協力・連携を保証するために参加機関すべてによって合意された協力の原則にしたがっています。TRLNは、そこでの協力と連携を現実のものとするためにこうした原則にたいする理解と受容そして共有しうる価値観といったものにその基礎をおくべきと考えます。コンソーシアムにおいていっしょに仕事をすることをつうじて、参加者は連携することの重要性とその価値を認識します。コンソーシアムにおいて、結果は、いかなる単独の図書館がなしうるよりもよりおおきな結果がもたらされます。TRLN参加図書館はそれぞれの機関における学生や教員の利益となる包括的で相互に関連する情報資源やサービスの発展に関与しています。これらは、以下のように表現され、この組織の目標、プログラム、そして優先順位の基礎を形成しています。

利用者
・ TRLN参加4機関のすべての学生、教員、職員はTRLN図書館それぞれの利用者とみなす。
・ 参加機関それぞれの学生、教職員は、印刷媒体資料にたいして所属する図書館と同等に優先的なアクセスが提供される。
・ TRLN参加機関のコレクションとサービスは、すべての参加図書館利用者が共通に利用な資源である。

共同プログラム
・ 共通の目標を達成することを目的として、TRLNが共有する理念によって個々の図書館にたいしてプログラムの変更が要請されることがある。
・ TRLNは、コンソーシアムにおける共通の活動をつうじてサービスの革新をすすめる。
・ TRLNのプログラムは参加機関の活動の支援・向上をはかるが、個々の図書館がそれぞれの使命を達成するためにほかのコンソーシアムや機関、ないし組織に参加することを排除ないし妨げるものではない。
・ TRLNによる連携は、すべての参加図書館がかかわることを必要としない。

統合プログラム
・ TRLNは、参加機関それぞれが提供する情報資源およびサービスについて包括的かつシームレスなアクセスの提供をめざす。
・ TRLNは、プログラムの質的向上と、同等のサービス提供にかかる参加図書館の負担の低減をめざす。
・ サービスの拡大ないしその質的向上、資源へのアクセスの拡大を目的としてプログラムの統合をすすめることがある。
・ 参加機関のためにライセンス契約等の交渉の場面ではTRLNは単独の組織体として機能する。

参加
・ TRLN評議会および委員会のメンバーはそれぞれが所属するキャンパスないし図書館の立場にくわえてコンソーシアムの立場から課題をとらえる。
・ 参加図書館からの代表者は活発かつ恒常的な参加をつうじてコンソーシアムの業務にかかわる。
・ コンソーシアムのプログラムにたいする強力な支援が参加機関のあらゆるレベルから行なわれる。
・ 迅速かつ有効な連携をすすめるために、参加機関はそれぞれの図書館、機関内において明確に定義された意思決定メカニズムを確保する。
・ TRLNのプログラムおよび活動は、可能であれば常に運営に統合される。

スタッフ
・ プログラムの目的を達成するためにTRLN参加図書館間での人的資源と経験の共有をすすめる。
・ 参加図書館はTRLNの業務に参加する職員にたいし時間を提供する。
・ TRLNの業務に参加機関の職員が参加することによりコンソーシアム活動に参加することの意義をあきらかにする。
・ 参加図書館の職員は連携事業に参加するために適切な研修と支援をうける。
・ その目的を達成するために、TRLN参加機関はコンソーシアム専任職員の雇用にかんして支援を行なう。
・ コンソーシアム専任職員はTRLN参加機関それぞれの職員と同等にみなされる。
・ プログラムの目的を達成するため、職員のポジションはほかの職員と同様に参加機関が共同して負担する。

資金
・ TRLNの活動は、参加費、基金、その他の外部的な資金などによるが、特別なプロジェクトやあらたな企画などは参加図書館からの資源の配分による。
・ TRLNはプロジェクト活動にたいする一定の幅の資金支援のモデルを提供する。
・ 参加機関全体にかかわらないサービスについては、利益を享受した図書館にたいして料金が徴収されることがある。
・ プログラム、サービス、コレクションの統合にかかわる資金はTRLN予算から指定され、さらに個々の参加図書館の予算に振り分けられる。

コミュニケーション
・ 参加図書館およびTRLN職員は学生、教職員、社会にたいしてコンソーシアムの使命ならびに使命を達成するための各プログラムについて積極的に広報を行なう。
・ コンソーシアムの職員、評議会ならびに委員会メンバーは参加図書館の職員にたいして組織の目的や現在進行している業務などについて定期的に報告を行なう。

企画と評価
・ コンソーシアムは教育、研究、そしてサービスをさらに向上させる戦略的な機会をさぐると同時にプログラムを企画・立案する。
・ コンソーシアムによって提供されたプログラムやサービスが、資源の支出と利益につりあっているかどうかについて定期的に評価が実施される。

TRLNは、4機関の教務部長と図書館長から構成される理事会によって運営されています。理事会は、政策の立案、運営予算の承認、財産の監査、そして戦略目標の設定などのTRLNのリーダーシップにかかわる主要な事項に責任を負っています。

TRLNにおける有給の専任職員は一名の理事長、二名のプログラム職員、一名の秘書から構成されます。

TRLN執行委員会は、4図書館の図書館長、理事長、協議会議長から構成され、期中予算の企画、監査、そして年1回の理事会の企画にかんして責任をおっています。

16人のメンバーからなる協議会は、参加図書館の図書館長から構成されます。たとえば、デュークの例では、プロフェッショナルスクール(法律、医学、そしてビジネス)の図書館長がメンバーとなっています。協議会は、実務的な政策の立案、提案の評価、課題の調査・研究、TRLNとその運営にかかわる執行グループにたいする提言などについて責任を負っています。

4つの常設委員会が協力のための実際の業務を遂行しています。すなわち、人的資源委員会、情報資源委員会、情報技術委員会、図書館パブリックサービス委員会です。それぞれ、4機関の代表者から構成され、TRLNからプログラム職員一名が事務局として参加します。

人的資源委員会は、図書館の人的資源の活用、研修、育成などにかかわるTRLNのすべての活動について企画、管理、調整を実施しています。これらの活動には、共同研修プログラム、分担や共有、雇用や育成、さらにプロフェッショナルおよびサポート職員にかかわる人材の活性化などの活動があります。最近の活動例としてはコレクション構築や、デジタルイメージ処理、学術コミュニケーション、電子媒体によるリザーブなどにかかわるワークショップの開催などがあります。

情報資源委員会は、印刷物、非印刷物、紙媒体や電子媒体など情報にかかわるすべての資源の同定、収集、組織、アクセス、利用、そして保存にかかわるTRLNのすべでの活動の企画、管理、調整を実施しています。この委員会はISI社のWeb of Sciencceをふくむライセンス契約にかかわる調査と実際の交渉にかんして責任をおってきています。最近では、火災や洪水などの災害からの図書館資料の保全について参加図書館にたいしてワークショップを開催しました。

情報技術委員会は電子媒体による情報の組織、蓄積、アクセス、送付や、こうした処理向上のためのオートメーションの利用などにかかわるシステムのデザイン、調査、選択、導入にかかわるTRLNのすべての活動を運営しています。共通する図書館オートメーションシステムのあたらしいヴァージョンへの統合がさしせまっており、過去1年間にわたりこの委員会の中心的な課題となっています。

図書館パブリックサービス委員会は、ふたつないしそれ以上の参加図書館に共通する図書館パブリックサービスの維持・向上、コミュニケーション、提供、そして評価にかかわる課題に責任を負っています。この委員会はまた、参加図書館間の互恵的サービスの調整にかんする課題についても検討をしています。最近、この委員会ではヴァーチャルレファレンスサービスについて調査をすすめています。この委員会は資料の貸借活動にかんしても調査しており、昨年の結果をご紹介しておきますと、TRLN利用者による直接貸出の件数は約3万9千件におよび、ILLによる参加機関間の貸出は1万8千件ありました。

将来的な課題としてTRLNにおいて現在、検討がすすめられていることとして、図書および雑誌の共同保管や資料の共同保存・保全、テクニカルサービスの共有(受入や目録)、コレクションの分担構築(ひとりのビブリオグラファーが4機関分をまとめて収集にあたる)、利用者によるILLの直接申込みといったことがあります。

共通点
私は、ひとつの非常に大きなグループ(16参加機関)ともうひとつはたった4機関というふたつのたいへん異なるモデルについてお話をしました。ひとつは北部であり、もうひとつは南部ということになります。しかしながら、これらふたつのグループは相違点よりもむしろ共通点を多くもっています。共通点は、互恵的な直接貸出、コレクションの共同構築、電子媒体資料の共通ライセンス契約、ILLの促進、参加機関に所属する職員の育成と研修といったことです。このふたつのグループは類似した運営機構と図書館職員による委員会組織をもっています。そして、両者とも経験豊富な専任職員によってささえられています。このことは現在米国に存在する、大規模図書館と小規模図書館、公立図書館と私立図書館、学術図書館と公共図書館などきわめて興味深い連携をもたらしている数百のコンソーシアムにきわめて典型的なことがらとなっています。

連携を妨げるもの

私は最初に、図書館協力は不自然な行為であることを何度も申し上げました。このことのいくぶんかは、米国の高等教育の競争的環境の影響によるものかもしれません。つまり、運動場や法廷における競争、学生や教員にとっての競争、ゲームの得点を競う競争ということになります。だれがもっとも大量の図書を所蔵しているのでしょうか?

19世紀末にハーバードの図書館長をつとめたジョン ランドン シブリーの以下のような言葉は当時多くの大規模図書館の共感をよびました。「ハーバードの図書館がほしがらない印刷資料はこの世に存在しないことがわかっていただけるとよいのですが。」ハーバードに匹敵する資料をもった図書館はほとんど存在しませんでしたが、こうした状況が「わが道を行く」という姿勢が消えずにまだ残っているということは、ときに微妙な、ときに露骨な数多くの事例が示しています。

本当の意味での連携を阻害する要因はほかにもあります。

組織的な慣性:ほとんどの組織は本来的に変化に抵抗します。図書館はその最たるものでしょう。こうした慣性は、とくに変化の初期の段階で、よい考え方をほとんどたなざらしにする可能性があります。

NIH(もともとここで考案されたものではない)症候:単に自分たちのアイデアではないという理由で、ほんとうならば最善かもしれないアイデアにたいして反対をとなえる組織も存在します。

資源と期待値の相違:財政的にめぐまれた図書館はしばしば相手方の機関よりも高い期待値を求めます。より高いレベルのサービスを提供することが可能だという理由から、サービスのレベルを下げてまで妥協する必要はないと考えるからです。他方で、財政的に厳しい機関は、コストを下げることのほうにより関心をもち、豊かな相手方の機関よりも低いレベルのサービスでも満足します。もうひとつの関連する問題は、期待値の違いにかかわります。一方は明確なコストの削減に満足するかもしれませんが、もう一方は巨大な利益が見込める場合にのみ参加を希望するかもしれません。

妥協不能:みんなが勝者となるために共同のためのあらゆる努力がなされるとしても、すべての参加者が勝者となるわけではありません。もしも、コンソーシアムの15の機関があらたなオンラインシステムの導入に合意し、のこりのひとつの機関が同意しないとしたら、そのことはグループ全体の成功におおきな影響をおよぼしかねません。

組織文化と政策の相違:資源と期待値のレベルの相違にも密接に関連しますが、ある組織は、グループのほかの参加機関とはあきらかにちがった文化、志向、ないし政策をもっています。このことは、資金や会計処理がたいへん異なる私立の機関と公立の機関とのあいだでの協力関係においてとくに顕著です。政府のかかわるところはどこでも、なにごとにつけ時間を要します!

人的要素の無視:協力関係の構築が人(利用者とスタッフ)におよぼす影響を考慮しない計画は、簡単に破綻します。真の協力関係は信頼のもとに築かれますが、組織内および組織間における信頼関係の構築は難しい課題です。TRLNが成功した理由のひとつは、およそ30年間にわたる歴史にあります。数多くの小さな変化の時間をかけた積み重ねが、あらたな協力関係におけるよりも、より高いレベルの信頼関係をうみだしました。

競合領域における協力:大規模な大学にありがちですが、図書館はそれぞれその機関の主要ともいえる領域と密接にかかわる領域をもっています。図書館はそうした領域に侵入してくるような協力関係を望みません。コレクションの収集において膨大な競合が存在する特殊コレクションはこうした領域に属します。

地域主義:グローバルな情報社会について話したがる私たち米国人は、実は、自身の地域的な境界を超えて思考することがとても苦手です。私たちは伝統的に外国と資料を共有することに消極的でした。ですが、ヨーロッパやアジアからサービスを享受してきたことも事実です。私たちは自分たちのこうした行動をかえるために皆さんの協力を必要としています。

結論
このように障害はたくさんあり、また現実ですが、克服は可能だとおもいます。これらを転じて成功への鍵とすべきです。

(1) トップをとりこみましょう:大学の教務担当者からの支持による図書館協力もしくはあきらかにこのレベルからの支援が存在する図書館協力はうまくいきます。より高いレベルでの連携が重要です。

(2) ステップはひとつずつ:協力はけっしてたやすくありません。着実な前進が信頼を築きます。

(3) 持続と忍耐:協力関係の構築には時間がかかりますが、しかし努力に値します。持続することです!

(4) 最初からもっとも巨大な竜をねらわないこと:比較的容易な仕事から始めましょう。最初の成功は重要な経験となり、信頼関係に発展します。竜はつぎにとっておきましょう!

(5) 競合領域を確認し避けましょう:もしも競合領域が存在するならば、初期の段階であきらかにしておきましょう。それら競合領域の周辺から合意をつみかさねることが重要です。

(6) 妥協しましょう:このことはいかなる協力関係の構築においても主要なことがらです。すべての参加者のすべての希望を満足されられないのならば、妥協することは必要です。

(7) 全員一致よりも合意を心がけましょう:すべての参加者がすべての企画に参加する必要はありません。すべての課題に満場一致はありえません。

(8)人的要素に配慮しましょう:私たちは、図書館利用者や図書館職員といった人間をあつかっています。彼らは自分たちの声に耳をかたむけてほしがっていること、参画したがっていること、自分たちもその過程の一部であると感じたがっていることを心にとめておくべきです。

1997年に図書館コンソーシアム国際連合が設立されました。このことは図書館協力が現在のグローバルな情報市場においておおきな意義をもっていることを示しています。世界の150をこえる図書館コンソーシアムがこのグループの討議に参加しています。私はこのことは図書館協力活動の将来にとってたいへんよい兆候であると考えています。

本日はご清聴ありがとうございました。今日のお話が、皆さんの興味をよび、思考を刺激し、いくつかの疑問をよびおこしたとしたなら幸いに思います。議論をつづけたいと思います。

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