JASPUL-CILC

UPDATE:2006/01/16

大学図書館の役割と使命:現在と未来

ポーラ コーフマン
イリノイ大学図書館長

私立大学図書館協会国際図書館協力シンポジウム
関西大学
2005年11月8日

はじめに

本日、皆さまと同席させていただき非常に嬉しく思っております。このように時宜にかなったカンファレンスにお招きいただきましたことを、名誉に思い、また恐縮いたしております。そして皆さまのご期待にお応えできればと願っています。皆さまがこの重要なテーマを取り上げていらっしゃることにお喜び申し上げ、パネルセッションを通じて活発な意見交換が行われることを楽しみにしております。

私はこの講演をまず、ポゴの話から始めたいと思います。ポゴというのは、20世紀の半ばの米国でとても人気のあった動物漫画のキャラクターです。ポゴは毎日、新聞に登場し、しばしば簡潔でありながら鋭い発言をしました。文法的には貧弱ながらも、ポゴの言葉の多くは未だに今日的です。例えば「僕たちは乗り越えがたい課題に直面しているんだ。」などは今日の話題にぴったりの言葉です。

長年、本当にそのように思いますが、大学図書館が直面する課題は、今日、そして将来的にも乗り越えられないものではないということに同意していただけるのではないかと思います。むしろ、それらは教育機関において図書館が新しい役割を担うよい機会であるとともに、伝統的な役割もまた異なる方法で担うことができるような新しい、わくわくするような機会を与えてくれているのです。私の観点はいうまでもなく北米人としてのものですが、私の見解が皆さまにも意義のあるものであることを願っています。というのも、私の見解が皆さまのお役に立ったり、少しでも刺激となって欲しいだけでなく、私たちは自分自身や図書館の役割について、ますますグローバルに考える必要があること、そして私たち日米の社会にはいくつかの共通性があるように思えるからです。日米の若者たちは共に、情報を得、利用するための新しい技術、新しいアクセス方法、そして新しい方法を渇望しているという共通点があります。そして高等教育においてよく似たいくつかの課題に直面しているように思われるからです。

私たちが何を達成したいか、いうなれば全体的なビジョンについて考えるのは、役に立ちます。というのは、私たちはそれを達成するためにはどのように自分の役割を修正すればよいかを考えるからです。最新のOCLC Environmental Scanにおいてこのビジョンは明確化されています。「もし図書館が組織図、内容についての人工的な区分け、目に見える分類方法、および現実の、あるいはそうでなければ混沌とした宇宙のごとく見えるものに対し秩序と合理性をもたらすそのほかの体系を消し去ったらどうなるだろうか?もしわれわれが豊かな内容とコンテキストを持つ使い易く、ユビキタスで統合され、人々、つまり答えや意味や権威があり信頼できる結果を捜し求める人々の生活に織り込まれるよう設計された情報領域を構築すればどうだろうか?…」  私たちにとって、それぞれのキャンパスでこのビジョンを達成し、それらを厳然とリンクさせ、高等教育、そしてさらに高い教育に向けたグローバルな領域を生み出すことよりもさらに大きな使命はあるでしょうか?

私たちがいかにしてこれを実行し、このように今後のもっと具体的な役割をよりよく理解するために、私たちの分野の組織が将来に向けて主に計画していることに目を向けること、そして高等教育における社会的傾向および変化を理解することは大切です。しかしながらそこに戻る前に、大学図書館が過去20〜30年間にどのように役割を果たしてきたかを手短に振り返ってみたいと思います。

私たちの大学図書館は、大学という名の王冠における「宝石」、大学の「心臓」、キャンパスの「宝」という有形のシンボルにより長い間、象徴され続けてきました。こうしたイメージは大学どうし驚くほど似通っているのです。大きな「メイン」の図書館の建物群は、大学内における図書館の地位を表す典型的かつ象徴的なものです。それらは中央に位置し、非常に重要で、とても大きく、独立しており、際立っています。これらのイメージは静的で、私たちの伝統的な役割を示すものです。それはつまり、よく言われるように指導や学習や研究をサポートする役割です。このように静的でサポート的なイメージは、私たちが活動している世界がシリコンによって支配された世界に変容した現在でさえ、かつて支配的であった世界に根ざしています。私たち大学図書館司書はこの変容によりもたらされた大きな変化を、まだ真っ向から直視しておらず、この変容が大学内の図書館と図書館司書に求める役割の基本的に異なった概念化にまだ全面的に取り組んでいません。今がそれを行うべき時なのです。

20世紀の大部分を、大学図書館は有形物の似たようなコレクションを構築する活動および、個人と表明された情報ニーズに応えるコンテンツを仲介するアクセスとサービスのシステムによって特徴づけられてきました。私たちは全ての資料を同じ記述法で扱いました。一般的に、図書館は全ての学問分野に対して同じようなツールのみならず、同じような方法で対応する組織になりました。私のいるキャンパスでも他の多くのキャンパス同様、学部図書館あるいは分館は全て同じような形態をし、同じように運営されていました。そして他のキャンパスの図書館のいずれも似たような形態で、似たような運営がなされていました。今日どのキャンパスを訪れても図書館やそのコレクション、そしてサービスを認識することができます。私たちは良いモデルを見つけるため、お互いに注意を払ってきたわけですから、この類似性には驚くべきものはほとんどありません。

しかし、今や状況は変化しています。グローバルな電子的未来は冒険的であると同時に危険にも思われます。カーボンベースの宇宙からますますシリコンベースとなっていく宇宙への胸踊るような変容は、大学図書館司書にとってはおそらく21世紀で最も重要な事柄、つまり伝統的でありながらも変化しつつある宇宙における私たちの役割の定義をせまっています。今日、未来の輪郭は科学者と技術者により描かれます。しかし、私たち図書館司書および他の人たちが設計プロセスに加わらない限り、シリコンによる未来はカーボンベースの時代よりも豊かなものではなくなり、私たちの役割も激減するでしょう。時間と空間の壁がなくなるにつれ、私たちは他者と彼らの空間で互いに交流しなければならなくなります。しかしながら、それらの空間は変化し、ともに学ぶことや協力し合って改革を行うことのエネルギーを再発見します。これは私たちのキャンパスそれぞれにおいて、異なった形で起こります。豊かなシリコンによる未来への変容と異なったキャンパスで異なった文化を形成する方法は、その役割をどのように形成するかについて各大学図書館が行う選択に影響を与えます。このようにして、それらはそれぞれお互いにどんどん異なって見えるようになるでしょう。

 

図書館団体の戦略的計画の傾向

私たちはしばしば重大な問題について思慮深いリーダーシップを提供してくれるよう専門的な団体を必要とします。大学図書館の役割と使命について、後ほど述べるより具体的な発言のためのコンテキストを設定するため、米国で影響力をもつ2つの組織、米国研究図書館協会(ARL)と図書館情報資源振興財団(CLIR)の方向性について検討してみることが有益かと思います。両組織とも、現在、3〜5年後の状況に合致するように設計された戦略的改革の開発に取り組んでいます。

ARLはたいへん重要な組織で、会員として米国およびカナダの上位123の研究図書館が名を連ねています。その会員図書館は同じ研究使命、志望、および業績を共有する包括的で大規模な研究機関の一部です。これらの機関は積極的に研究に従事し、図書館のコレクションとサービスに対し高レベルのニーズと期待を寄せている多くの研究分野にわたる研究者たちの注目すべきコミュニティーを構成しています。

ARLの戦略的計画は、ARLアジェンダを包括的かつメンバー全員によって検討と評価する時であるという認識のもと2004年に公表されました。同協会は研究図書館がその専門性、サービス、および収集し保存するリソースを通じて、所属する企業に価値を付加することを認識しています。 また、研究図書館が大きな変革の途上にあるということも理解しています。そこには次のように書かれています。

今日の研究図書館は過去のそれらとは異なり、また未来における研究図書館は現在のものとは異なって見えるでしょう。図書館内でのごく最近の劇的な変化は、研究分野や研究機関それ自体の中での変化と同様に、ITアプリケーションとユビキタスネットワーキングの帰結です。研究図書館が環境に呼応して変化しても、その核となる責任は維持されます。研究図書館はあらゆる形式での発見および研究知識の使用を可能にするために、収集、保存、そしてサービスの提供を続けます。特に、研究や高等教育が知識を分野と下位分野に再分割するにつれ、研究図書館のコレクションおよびサービスは学際的な理解や質問を推進する情報の統合を容易にする掛け橋を提供します。

ARLは3つの戦略的な方向性を明らかにしています。それは「学術コミュニケーション」;「情報と公共政策」;「教育・学習・研究」の3本の柱です。各戦略に対する目標は志の高いものです。同協会では、教育・学習・研究、および地域へのサービスのサポートにおいて、質の高い情報へのバリア・フリーのアクセスを提供する効果的で、拡張性があり、持続可能で、経済的に実行できる学術コミュニケーションのモデルとなるべく努力しています。また、情報を管理し、利用できるようにする方法を左右する、内政的および対外的な情報政策およびその他の公共政策に影響を与えようと努力しています。そしてARLの図書館が研究や学士教育および大学院教育に影響を与える変容に取り組むというARLの加盟館にとっての新たな、そしてより広がりのある役割を促進し、容易にすべく尽力しています。

私が取り上げたいと思っております、もう一つの組織が図書館情報資源振興財団(CLIR)です。同財団は米国図書館振興財団(CLR)が前身で、世界中のあらゆる種類の図書館に影響を与え、50周年を迎えました。「CLIRはどのような形で記録され保存されていようと、公益として情報へのアクセスを広げるために活動しています。プロジェクトやプログラム、そして出版物を通じて、CLIRはこれからの世代のために、情報へのアクセスを維持し向上させるべく活動しています。」  ここ20〜30年ほどは、CLIRの活動は、それだけではありませんが、大学図書館に重点を置いてきました。過去5年にわたり、3つの主要なテーマがその活動に浸透しています。それは(1)将来的に利用できるように、デジタルおよび非デジタル情報に対する新しいアプローチを育てる、(2)情報の専門家が持つリーダーシップの領域を広げる、(3)情報の展望における変化を分析し、実際に情報を扱う人々がそれに備える手助けをする、という3つです。

新しいリーダーシップの下で、将来を見据えて、CLIRは来る3〜5年にかけての活動のいくつか新しいテーマを探ってきました。それらは、(1)図書館としての場所、(2)学術コミュニケーション、(3)保存と管理、そして(4)リーダーシップです。私はCLIRが引き受けようとしている探求の本質について理解することが大切だと考えています。といいますのもCLIRがこれまでの業績と同様に、それらが私たちの共同体の将来に対し影響を与えることを確信しているからです。

「場所としての図書館」が、特にアイディアをめぐって、またはアイディアについての協働や関わり合いのための空間している点で、大学図書館の使命を満たすために依然として重要であることを認識して、CLIRはまた、図書館を物理的な位置に関係なく提供・構築可能なリソースやサービスの集合として幅広く捉えることも目的としています。数年前に同財団の出版による『Diffuse Libraries: Emergent Roles for the Research Library in the Digital Age(図書館の普及:デジタル時代の研究図書館にとっての新たな役割)』に言及されているように、その焦点は、いかにして大学−という場所−が図書館と同義となるよう、あらゆる学術的な設定の場に図書館およびそのリソースをより普及させていくかということに向けられています。

学術コミュニケーションの問題は膨大かつ複雑であり、それらをよりオープンで手ごろなものにすることに取り組みたいと願っている組織は世界中に多くあります。これらの考察におけるCLIRの役割は、「保証」ということに焦点が置かれるでしょう。研究者たちが価値を置くピアレビュー、および図書館司書がそのコレクションに収めることによってその研究に対して与える付加的な保証を、学術コミュニケーションのシステムに起こると予期される多くの劇的な変化を乗り越えて、いかにしてそのシステムの中に保存するかということを深く考えることによってそれを行うことになるでしょう。私は次の3つの質問を提起します。(1)図書館のコレクションに加えるという保証がなくなった場合、研究者あるいは学生にとって何が失われるでしょうか? (2)それぞれの見識ある自己利益の観点からそのトピックにアプローチする時、図書館と出版社が共有する基盤は何でしょうか? (3)認定されたデジタル資産のコレクションを構築することが何を意味するでしょうか?

CLIRは保存と管理の問題に長らく関心を持ってきました。しかしながら米国では、大学図書館はそのフォーマットを問わず、コレクションの保存には、ますます手を掛けなくなってきているように思われます。一般的に大学図書館司書が保存に力を入れない限り、出版社はデジタル作品の保管にはほとんど関心がないようですし、保管されたデジタル資料に対しては経済的な需要もないようです。このことによって私たちはキャッチ22的な(どうにもならない)状況に置かれてしまいます。CLIRは、情報作成の経済面、頒布、および保存に関する問題に取り組むため、出版社と図書館司書の対話に焦点を当てることを仕事にするよう計画おり、別の解決策を討議することにより双方に利益を生むような分野を見つけることを目標にしています。

最後にご紹介するのは、学術機関におけるリーダーを育成するプログラムに投資を続けるという計画です。ここ5年間、CLIRのFrye Leadership Institute(フライ・リーダーシップ・インスティチュート)は高等教育機関において学術情報マネジメントの変容に責任を持つ地位を現在占めるか、あるいは将来的に占める人物に対する教育の機会を提供してきました。ごく最近のプログラムの一つがCLIR Postdoctoral Fellowship Program(CLIRポストドクトラル・フェローシッププログラム)です。このプログラムは人文および社会科学分野の最近の博士号保持者を図書館司書にひきつけることを目指しています。プログラムは学術的な研究機関との共同で提供され、伝統的な形態であれ、デジタルであれ、それらをサポートする学術的研究および情報リソースの新しい形により生み出された課題やチャンスについて新たな研究者を育成することにより、新しいタイプの学術的情報の専門家を確立しようと尽力するものです。

これらの大変短い報告からもお分かりいただけるように、影響力をもつこれら2つの組織がともに、この挑むべき課題の多い時期に自ら変容的であることが私たち大学図書館司書を助けます。一般社会において、とりわけ高等教育において何が起こっているのかということに目を向けた時、これらの組織は私たちが心に留めるべきいくつかの良い道標を提供してくれます。それを述べた後、私はそれらの道標が示す課題やチャンス、そして可能性のあるモデルをご紹介しましょう。私は社会、宇宙、そして図書館で私たちの周りで起こっていることを理解することが、それらが私たちの使命や役割にどのように影響を与えるのかを考える際に大切であると考えています。

まず社会全体で何が起こっているのかということから始めましょう。

 

社会的傾向

私たちはオンデマンドの「自己」中心的世界に生きています。今日、多くの人々にとって、インターネットが最も重要な情報源となっています。

ほとんどの人々はこの複雑な領域へのシンプルな入り口を求めており、見返りにシンプルで権威のある結果を欲します。Googleの成功は、これらのニーズに基づいています。すなわち、1つの入力ボックスしかない主に白色のスペースからなるシンプルなウェブサイトと彼らが所有権を有するアルゴリズムによって、知識のないユーザーには、網羅的に、そして関連性と信憑性の高い順番で検索結果を出してくれるように見えるのです。ベーシックなGoogle検索は今や、画像、本の引用などウェブサイト以上のものを含んでいます。同様に広告も含んでいまして、これははっきり区別されてはいるものの、ややもするとより客観的あるいはより関連性の高いウェブサイトと混同されてしまいます。

私たちは、インターネットユーザーについて、大変有益な事柄を学び始めています。米国のティーンエイジャーの大部分、つまり12歳から17歳までの87%と、米国の成人のほぼ3人に2人が情報ハイウェイを使用しています。若者は今や携帯電話でテレビが見られるという機能を持ち歩いている訳ですが、ユーザーがインターネットでの経験を積めば積むほど、彼らはテレビを見なくなります。Pew Internet & American Life Project(ピュ―・インターネット・アメリカンライフプロジェクト)の新しい報告によりますと、米国の10代の若者たちの81%がオンラインゲームを楽しみ、76%がインターネットでニュースを知るということです。米国の10代の若者たちのほぼ半数は携帯電話を持ち、33%がテキストメッセージを送ったことがあります。携帯電話でのテキストのやりとりは、既に頻繁にオンラインし、他のインターネットツールもよく使う若者の間では特に広まっています。

今や何年も昔からのように思えてしまいますが、電子メールはインターネット上で最も一般的なアプリケーションになっています。ティーンエイジャーの生活における電子メールの存在は持続しており、電子メールを用いる若者の数はインスタントメッセージを用いる若者の数をしのぎ続けてはいますが、友人とのコミュニケーションにどちらの様式をよく利用しているかと尋ねられた場合、オンラインを利用している10代の若者たちは一貫して電子メールよりIM(インスタントメッセージ)を選びます。Pewの調査の焦点グループに参加した10代の若者たちは、電子メールは「お年寄り」や(学校など公共)機関とやり取りするために使うもの、あるいは大勢のグループに複雑な指示を送る場合に使うものをみなしています。テキストでの気軽な会話となると、特に友達とのおしゃべりには、今日のインターネットユーザーである10代の若者たちにとってオンラインインスタントメッセージが明らかに第1の選択肢となっています。調査を行った10代の若者たちの32%が毎日インスタントメッセージを使っています。

多くの時間、テレビを見るなどの受身的な活動に費やしていた国民が、今や双方向的な活動に移行している影響は非常に奥深いものがあります。それは文化、経済、政治、および社会的行動のあらゆる面に影響を与えます。人々が印刷物からオンラインの出版物に移行すること、静的な文書から動的な文書に変容することは、おそらく読書習慣にも影響を与えるでしょう。学術資料へのアクセスを提供するGoogle Scholarによって例証されるように、フルテキスト文書へのアクセスがどんどん増えています。Google Printは(著作権の問題が解決することを前提に)来る数十年で何百万という印刷された本をデジタル化することになり、これは人々がどのように情報にアクセスし、それを用いるかに重大な影響を与えます。それらは「学術的な」作品と「ポピュラーな」作品との境界をあいまいにさせてしまいます。インターネット上での情報の偏在性、つまり「長いしっぽ」は今まであまり知られていなかった作品を世に出し、瞬時に信頼のある形式のように見えるものに何でもアクセスできる能力は、図書館司書が時間と場所から独立して、図書館司書が応えていくべき(利用者の)期待と需要を高めます。

情報に対する受動から能動という関わり方の変化は、キャンパスに溢れる若者と私たちがコミュニケーションを取る方法に明らかに影響を与えるでしょう。そして「ゲーマー」達の急増もまた、現在および将来の学生達に対してサービスを提供する方法に影響を与えます。Pewの調査によれば、インターネットを使用する10代の若者たちの約81%がオンラインゲームをするということです。  これらの若者はこの活動に多大な時間を費やし、よく世界中からインターネットを通じて集まった相手と対戦します。これらのゲームに伴うマルチメディア戦略ガイドでは、しばしば文化、社会、そして世界全体についての豊かな情報源になります。これらの新しい情報習慣は、多くの新しいメディアコンテンツのグローバルな性質と相まって、図書館司書にとって迅速でユビキタスなデリバリーを提供するというわかりやすい期待以上のものを意味しています。

カーボンベースからシリコンベースの世界への変容により社会の多くの面が変化の途上にあり、それらの全てが若者文化に集中しているわけではありません。

おそらくマス・マーケティングほどこれをうまく例示しているものはないでしょう。マス・マーケティングは広範な匿名の群集への販売から何百万という個人消費者への販売に力点を移動させることで優位に立ちました。マーケット担当者にとって、マス・マーケティングからミクロ・マーケティングへの進化は、チャンスであると同じく必要性によっても対応を迫られる根本的な変化を象徴しています。デジタルおよびワイヤレスコミュニケーションチャンネルの急増は、これまでの大衆という存在を希薄にさせます。一握りのメディアの出口を通じてしかアクセスのできなかった過去の大聴衆から、テレビ番組、ケーブルテレビ、ラジオ局、専門雑誌、コンピュータ端末、ビデオゲームのコンソール、携帯端末、携帯電話画面、そして将来的にはまだまだ出てくるかもしれない何百というメディアの出口に広がっているそれぞれが個別性を持った聴衆に変容しつつあるのです。90年以上前、米国人はみんな、黒のT型フォードの自動車を欲しがりました。今日ますます多くの人々がインターネットで、特徴や色を選び、自分の好みに合った自動車を注文します。

「自分に合う」製品や特徴を絶え間なく捜し求める現象が、大学図書館を含むすべてのマーケットセグメントで需要と期待を呼び続けるでしょう。

マス・マーケティングからミクロ・マーケティングへの変化はまた、社会的な姿勢の重大な変化をも反映しています。かつての消費者は受動的にネットワークの番組を受け取るだけでしたが、新しい消費者はコンテンツを操作し形成する、力を持ったユーザーです。かつて人々は世間一般についていけることを望みましたが、今やその他大勢から目立つ存在になりたいと思っています。昔のブランドは大きく偏在していましたが、新しいブランドはニッチブランドとエクステンション製品です。旧来の図書館のユーザーは建物にやってきて、資料を使ったり借りたりし、助言を求めました。新しいユーザーは時間と場所から独立してコンテンツやサービスにアクセスします。彼らは一冊の物理的なコレクションの地理的条件から開放されており、図書館のコンテンツやサービスを使っているのだと意識しないこともままあります。

伝統的な大衆を個別化しているのと同じ技術の進歩は、個人的な必要に応じて、メディアを編纂し、編集し、さもなければカスタム化する、デジタルに精通した新しい消費者にも力を与えています。私たちの世代に共通の経験であったことが、現在の世代のメンバーにはもっと個人化した経験となってきています。究極的にはこれは、誰にでもどこででも、ある程度のカスタマイゼーションを提供するということに尽きます。私はこういった傾向は、あらゆるコンテンツやサービスを提供するのを事としている大学図書館司書に特に関連深いものであると考えています。なぜなら、そのようなコンテンツとサービスは、今すぐではなくてもまもなく来る5〜10年の間に大学に入学する何百万という学生から、あらゆるコンテンツやサービスを提供するにあたっては、カスタム化できるようにという要求と期待から出て来ると考えられる課題に直面しているからです。

私たちの学生および若い研究者も、私たちから同じものを求めています。つまり彼らが管理し、彼らのためにのみカスタム化された、あるいはマス・カスタム化されたサービスです。私たちの役割は、引き続き情報コンテンツへのアクセスおよび、ユーザーがそのコンテンツを見つけ、評価し、使用し、もっと自分で独立して操作できるようにこれらの技術を学ぶ手助けとなるよう設けられた一連のサービスを提供することですが、私たちは一般的なサービスをもっとカスタマイズされたものに進化させなければなりません。ですから、例えば、私たちのサービスやコレクションへのアクセスをキャンパスの学習管理システム(これを通じてコースの読み物を配布します)やキャンパスポータルに統合したり、これらの統合的なツールを、コンテンツ、コレクション、パスファインダー、あるいはその他のサービスのほぼどれをも個人化できるような統合的なツールを設計しようとしています。私たちはもはや図書館を独立したサービスの主体であるとは考え得ないのです。むしろ、私たちは図書館を学生や大学教職員の観点で、統合されカスタマイズされた不可欠なサービスのセットとして見る必要があるのです。

大学図書館の役割や使命について私たちが考える時、重要な社会的な傾向が他にもたくさんあります。時間がないために、すべてを検証することはできませんが、見過ごすにはあまりに大きすぎる一連の傾向があります。それは政府の公共情報政策です。政府の政策は、アイディアや情報、そして知識の流れにとって常に重要なものでした。私たちの国が世界の中で占めている場所、国内外の敵の恐怖という不安、そして私たちの自由というものを現在のコンテキストの中でしかるべき場所に位置づけている哲学は時代ごとに変化してきました。デジタル時代における著作権の保護、また、最近の展開や世界中で起こっている21世紀のテロリストの攻撃に対する反応は、創造的な作品の創造者たちにより大きな保護を与え、以前は個人的な活動であると解釈されていた事柄に対して介入できるよう政府により大きな権限を与えるという、基本的な哲学を反映する現行の政策の原因となりました。米国がもはや支配的ではなく、また世界のほかの国々をひきつける高等教育の中心でなくなった世界で、自らの場所を定義しようともがいているように、来る世代の図書館司書たちは司書であることの基本的な価値を脅かす政策と葛藤することになるのは間違いありません。10年以上前、私たちの多くは著作権法が将来、情報アクセスの最大の障壁になるという問題提起を行ったものです。残念ながら、私たちの言葉は現実になりつつあります。私たちはただ座して、他人に自分たちの戦いを任せているわけにはいかないのです。積極的な主張をしなくては、アクセスに対する政府の介在や使用の際の障壁は必ず大きくなります。

社会的な傾向については、一日中でもお話することができますが、ご一緒できる時間が短すぎます。世界中の高等教育において何が起こっているかを理解することも同じく重要です。

 

高等教育の背景

大学で働けるということで私たちは非常に大きな恩恵を受けているということに賛同していただきたいと思います。大学は独自の教育機関で、あらゆる面での知識を生み出し、流布するという基本的な使命により定義されています。私の知る限り、大学は科学者、研究者、芸術家がこの仕事を行うために、そして自らの分野の価値やツールを次の世代に引き渡すために集まっている唯一の機関です。大学組織内で現在起こっている、そして将来起こりうる変化を十分に理解せずに、大学研究図書館が将来直面する課題や選択を理解することはできません。

日本と米国の大学は21世紀の始まりにおいて多くのよく似た課題に直面しています。財政的な制約により、政府依存の財源から授業料および民間資金調達依存への抜本的な変容が成されています。加えて、大学は電子およびネットワークテクノロジーの重大な変化、新しい学際的共同作業、そしてますます増え続ける企業出資による研究および技術の移転、研究大学において学部学生を指導することにますます焦点がおかれている現状、査定結果がますます政府の助成金額につながる傾向にあること、学術コミュニケーションの変化、そして米国においては、幅広く存在していた外国人学生の減少にも直面しています。これらは、他の変容期の間に経験した変化と同様に深く大切な変化のための条件を生み出す影響力の一部にすぎません。

米国では、州政府が支援する公立大学が高等教育の学生の大多数の教育を委任されています。しかし伝統的に資金を提供してきた州政府は今や保健医療、保安、法の施行、小中学校の教育などの問題に直面し、高等教育に求められる水準の資金提供が難しくなり、かつ消極的になっています。20世紀の最後の25年間に行われた政府助成金の削減は、州の財政状態の回復により比較的早く逆転しました。その頃、州政府は平均して公立大学の収入の3分の1以上を援助していました。

しかしながら、21世紀初頭の10年間に起こっている話は今までのところ、大変異なった展開となっています。州政府の大きな介入と助成金を伴わない委任は、連邦税率が下げられた時でさえ−あるいはおそらく−特に、新税を課したくないという意向があり、これらが米国の高等教育の助成金削減へとつながりました。州政府の助成金は現在、公立大学の収入の20%以下になっており、その数字はさらに下がる見込みです。というのもたとえ州の財政が回復したとしても、高等教育への資金を増やすということはないであろうとの認識が私たちの間に広がっているからです。私たち両国の政府とも運営費の削減と、財政的な助成を結果の実証に結び付けることを求めています。

大学図書館も同様の圧力から免除されるわけではありません。学術資料価格の継続的な高騰、複数のフォーマットによる新しいコンテンツの急増、新しいサービスへのますます大きくなる需要、そして現状維持の、あるいは減少しつつある予算が私たちに容赦のない要求を突きつけてきます。私たちの課題は大学内において私たちの役割をこれまでとは違うやり方で考え、役割を実行するために新しいモデルを開発することです。

私たちがこれらの圧力に直面しているのと時を同じくして、私たちは教育、学習、学生の取り組み、情報コンテンツの頒布と情報教育、およびテクノロジーの使用のための大変将来性のあるモデルを構築しているのです。この時期にこれらのチャンスを活用するリスクを冒すことは、私たちの創造性とやる気を証明することになるでしょう。根本的な変化が、21世紀を通じて繁栄する教育機関を特徴づけるだろうと言っても私は過言ではないと思います。

わが国の大学の多くは、将来における重点の置き方を根本的に変革しつつあります。私が勤める大学のような総合大学は、全ての分野において上位にランクされるよりもむしろ、2〜3の「テーマ」に絞って、真の意味の戦略を構築し始めています。例えば、私が勤めているイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校はインフラサービスと全体的な投資を強化する5つの学際的戦略に焦点を当てています。

・ヒューマンヘルスおよび保健に関する際立った強みを構築する。

・コンピューティング、情報システム、および材料について複数分野にわたる研究を行う。

・明確なチャンスと大学の強みのある分野において、重要な社会的問題に取り組む学際的な社会科学行動科学を促進する。

・エネルギーと持続可能性についての研究を展開する。

・芸術、人文科学、社会科学の重要な貢献を育成し、世界の多様な文化および問題の人間的な局面を探求し、理解を深める。

研究者たちは学問分野によって組織され、自分たちの大学よりも自分たちが所属する学会に対してより大きな忠誠心を示しますが、複数の学問分野をまたいだ、あるいは学問分野間の研究や指導は新しいものではありません。新しいように思われているのは、新しい学際的研究の加速度的な具体化であり、世界中の大学キャンパスでの際立った存在感です。私の勤めているような図書館は、長年、コレクションやサービスを学問分野のカテゴリーに分けて整理しており、過去に伝統的な学問分野のニーズを満たしてきたのと同じように効率良く、学際的なグループのニーズを満たすことが特に重要な課題であると認識しています。

大学図書館だけが新たに形成されつつある分野の扱いで奮闘努力しているわけではありません。大学側も焦点を当てるべきテーマを選んでいるのですが、大学自体がまだ学問分野に基づいた構造改革に手をつけることができていません。これまでのところ、大部分のケースでは、新しい学際的な研究が生じた場合は、伝統的な形式の上に新たな組織構造をかぶせている状況です。高等教育の部外者が、大学が運営に多額な諸経費を生み出していると非難するなら、おそらくそれも一理あるでしょう。というのも、これらの層や構造はすべて新たな管理層を必要とし、それによって追加の経費が生じるからです。自らの編成や運営の新しい方法を生み出すためにゼロベースのアプローチを取るのは最も勇敢な少数の大学に限られるでしょう。同じ事を行うためには、大学図書館司書も同様に大胆になる必要があります。

米国は、その国際的な高等教育における優位性を揺るがす一連の課題に直面しています。2001年9月11日のテロリストの攻撃とそれに続くヨーロッパや中東の地でのテロ攻撃は、米国が入国に対して大きな障壁を設ける結果となりました。また同時に、他の多くの国の高等教育機関が、海外での教育の経験を求める学生に対して、米国に対し競争力のある代替手段を構築しています。中国だけをみても、この10年以内に新しい総合大学200校、研究大学20校から30校を建設する予定です。米国の高等教育に対して競争力のある代替手段ができることは米国人にとって教育の経験を変化させる状況をもたらします。米国人にとっては、これまでのように非常に多くの国からの非常に多くの人々と一緒に自国の学校に通うという機会もなくなる恐れがあります。これらにより、米国でポジティブな教育を経験した政財界の指導者たちが存在する数多くの国々と米国とが長年培った友情にも変化が生じかねません。

これらの強力な影響力が高等教育を変化させています。情報と知識が生み出されて広がる学術コミュニケーションもそうです。学術コミュニケーションは大きな変容の途上にあります。この変容は、印刷機の発明や学会の発達以上に、高等教育にとって重要なものかもしれません。それは電子メールなどの新しい技術をエネルギー源としています。電子メールは時間と場所を超えて研究者や学生が共同作業を行う能力を根本から変化させました。この変容はまた、高価格を生み出す経済的および規制的な力と、研究者が仕事を分かち合う能力を規制する著作権体制とによって増幅されます。分散したコンピュータとオープンネットワークという現在のトレンドが、学術コミュニケーションの形成されつつあるモデルと相まって、関係者間の境界を取り払い、これがより浸透性があり重なり合う役割を可能にしましたが、法的な構図がこの形成途上にある技術的な能力に対峙する反対勢力を生み出しています。

カーボンベースからシリコンへの変容は研究者がもっと容易に協業することを可能にしましたが、学術コミュニケーションの産物の形態は、少なくとも未だ本質的には変っていません。著者は依然として、意見を述べ、情報、考え、洞察を伝えます。しかし変化は地平線まで見えています。バージニア大学の『The Shadow of the Valley』の例で見られるように、伝統的な図書形式の能力を超えた学術コミュニケーションの新たな分野が出現しつつあります。これらの新しい分野の多くは、その能力の開発に新しいツールを必要とします。その一つがデジタル図書館連盟(Digital Library Federation)のAquiferプロジェクトです。Aquiferは研究者がデジタルコンテンツを直接職場に持ち込み、あたかも自分で作成したように使用できるよう設計されています。他の多くも追随するでしょう。将来的には、そのキャリアの当初からデジタル的な環境で仕事をしてきた研究者が、歴史的に教科書が占めてきた特権的な地位を押し下げる新しい形式やフォーマットやマルチメディア的に統合された成果を生み出していくことでしょう。図書館の役割はこれらの新しい形式、フォーマット、ジャンルすべてを、収集し、本物であると認証し、保存し、永続的にアクセスできるようにすることです。Aquiferプロジェクトにより取り組まれているような技術とサービスの層を構築することも、図書館の役割に含まれます。

 

大学研究図書館にとっての意味

では次に、これらの社会的における、また高等教育における動向が、大学図書館ならびに大学図書館司書にとってどのような直接的意味を持つのかについて、ARLおよびCLIRの新たな戦略を背景にして考察していきたいと思います。私たちは、私たちの役割とその実践方法をどのように変えていかなければならないのでしょうか?伝統がデジタルの可能性およびその現状と衝突する時代;新しい世代の学生たちが、デジタルによる力と管理が支配する「自己」中心的な世界で育ってきたという事実;時空間の境界が消えてしまった時代;研究者たちが、新しい協働体系の中で仕事を行い、新たなジャンル・フォーマット・様式・学術コミュニケーションモデルを開発しつつある時代;大学が、今までにない経済危機に直面し、資金調達の問題が本来の使命より重視されるおそれがある時代;公共政策の変更により拘束が厳しくなった結果、情報の自由な追求と共有が阻まれ常に誰かに監視されているという意識を生み出している時代;大学の組織文化と学術コミュニケーションの利害関係者とがぶつかり合う時代;そして、変化を受け入れないこのような組織的文化は未来に適さないと思われる時代に、大学図書館を率い、管理し、そこで働く私たちにとって変化とは何を意味するのでしょうか?

私たちは今、カーボンベースからシリコンという大きな変換を伴った重要な岐路に立っています。すでに考察してきましたように、アイディアが生まれ、共有され、文書化される世界、すなわち私たちの世界は、印刷機の発明と同等もしくはそれ以上に大きなスケールと影響力を持つ変化の時を経験しています。かつては紙面上にインクで記され、綴じられ、一冊ずつ書棚に納められていたコンテンツは、今やその拘束を逃れ、必要な時にカスタマイズ化・個別化された形で今すぐに入手したいと望む利用者、すなわち、いかなる犠牲を払ってでも情報を自己の管理下に置こうとする利用者に入手可能なものとなりました。その結果、私たちもまた、静的コレクションから特化された専門的技能へと重点をシフトしなければならないのです。

従来の大学図書館は主にそのコレクションによって定義づけられていましたが、今日の図書館の最大の特徴は、コレクションのみならず、コンテンツサービス・専門性の総体としての存在にあると言えます。私たちの図書館の大半は非常に似ているうえに、大学構内にあってはほぼ独立した機関として運営されています。これは、大学図書館の運営―実際独立して運営しているのですが―というよりはむしろ、構内の各学部や学科あるいは情報技術部と同じ意味合いで独立した存在であるという意味です。

印刷物の収集を取りやめ、さらには収蔵している印刷コレクションを手放し始める図書館が増え続けている中、すなわち、多くの図書館が、手に触れることができるコンテンツよりも、より今日的なデジタルコンテンツへのアクセス提供に注力する中にあって、大学図書館ならびに大学図書館司書は、従来の役割を実践すると同時にOCLCの構造メタファーに沿った方法で新たな役割を引き受けることになります。今日の大学図書館は未だに従来の図書館構造の中に組み込まれ、そのコンテンツとサービスは、ほとんど図書館という従来の建物の中で提供されていますが、将来は、より拡散すると同時に浸透し、混じり合うと同時にはっきりした存在になると思われます。その場所、すなわち大学そのものが図書館となるにつれて、最も活動的な図書館は独立した組織として看做されなくなると思われます。それに伴い、大学図書館司書の役割もまた、サポーターから協力者や共同制作者のそれへと変化することになるでしょう。図書館という空間は引き続き重要で独特な場所として存続すると思いますが、図書館司書と彼らが多様なサービスを通してアクセスを提供するコンテンツは、現時点では想像もできないような方法で、大学、すなわち各学部・研究室・学習コミュニティー・学習システム・学生寮などを含むキャンパスの隅々まで拡散・浸透することになるでしょう。

今日、私たちは、大学図書館を私がこのスピーチの初めに述べたような伝統的な静的イメージとして捉えていますが、将来は、大学図書館の唯一の共通イメージ、唯一の象徴を思い出すことさえも難しくなるのではないでしょうか。お互いに非常に似ていた20世紀の図書館とは異なり、また、核となるサービスとデジタルコンテンツについては恐らく全ての大学図書館が同様に提供していくでしょうが、21世紀末には、各大学図書館のサービス内容の多様性とその提供方法は似ても似つかないものになっていると思われます。今世紀が進むにつれて、また大学図書館のコレクションの質が同等になるにつれて、図書館が提供するサービス内容とその提供方法は分化していくでしょうし、私が所属する図書館が保有しているような大規模な印刷コレクションを含む、各図書館の特別コレクションの価値が増大する一方で、共通点はますます少なくなると思われます。図書館司書−すなわち図書館−は、それぞれ、学問および学術コミュニケーション手段の教師・協力者・共同制作者として、教室、図書館、オフィス、バーチャルスペースに浸透していくでしょう。しかも、各図書館司書によって異なるレベルと方法で浸透していくと思われます。図書館司書は、類似性ではなく多様性で特徴づけられた新分野の先駆者となると思われます。

残念ながら、むしろ、幸運にもと言うべきでしょうか、今日ここに集まった私たちのほとんどは、今世紀末まで生き延びて、私の予想が正しかったか否かを知ることはないと思います。しかし、幸いにもその途上で、私のどちらかと言えば挑発的な宣言に対し皆さまが私の責任を問うことができる指標があると思います。

私は、今後10年間で、多くの図書館司書が現在よりはるかに所属機関の組織の中に統合されていくと思います。図書館司書は、広範囲に及ぶ学問分野および今後ますます大学内で拡大すると思われる新たに開設された、あるいは今後開発される多くの学際分野において、深い理解を有すると同時に一体となって協働できる、優れた技術を持つ専門家となるでしょう。将来の図書館は、シリコンがより一層重視される中にあって、現在よりはるかに協働的・共同制作者的立場からカーボンベースとシリコンによる知識追求を可能にする存在になると思われます。すなわち、図書館司書は教師や学生がいる場所で仕事をするようになるだけでなく、図書館司書の業務そのものが彼らの仕事の一部 ―例えばラボグループやセミナーの一部、研究プロジェクトの協力者、共同指導教官、学術的研究や学習ツールの共同制作者―となると思います。ユーザーは、図書館に行くあるいは別途図書館司書の参加を要請するよりもむしろ、サービスやサービス提供者である図書館司書が物理的に彼らの環境内に参加することを求めるようになるでしょう。

図書館とネットワーキングに関して、OCLCのLorcan Dempseyが、先頃、私のビジョンを裏付ける3つのポイントを明らかにしました。第1は、図書館はユーザーの作業様式に「合わせて」いかなければならないというもので、これは、ネットワーク分野においては、RSSフィード・ツールバー・リンクと学習管理システムなどにおける供給重視のフローからの情報をまとめた需要重視のユーザーフローを通して、新しいネットワーク・ワークフローに合わせて行くことを意味します。Dempseyは、このような流れの中に入り込むためには、相互運用が可能で組み換え型の多様な方法で資源を提供する必要があると指摘しています。すなわち、異なるソースから得たメタデータなどを新しい集合サービスとして、複数のソースから得たコンテンツを新しいコース資料もしくは提示資料として、様々なネットワークサービスをポータルフレームワークとして、柔軟に再結合していく必要があります。最後に、Dempseyは、緊密なコラボレーションとソーシングという2つのテーマを重視しています。前者は、図書館が、図書館集団の知恵を活用しない限りその恩恵に与れないような環境の変化の複雑性に関連し、後者は、図書館が、相互ならびに第三者サプライヤーとの緊密なコラボレーションに依存することに関連しています。今後、それぞれの図書館の差別化が進むでしょうが、同時に、相互協力によってそれぞれの資産を活用していくことが必要になります。

先に述べましたように、20世紀の大半において、図書館は、有形資料コレクションの拡大と、顕在化した情報ニーズに応えることを目的とした個人とコンテンツ間を仲介するアクセス・サービスシステムの開発によって発展してきました。これらのシステムは押しなべて全ての資料を同じ記述法で扱い、図書館の活動は出版物の構造もしくは機能にほとんど影響を及ぼしませんでした。一般的に、図書館は全ての学部に同様のツールを提供する組織として存在し、しかも、その提供方法はほとんどのキャンパスに共通するものでしたが、今日、この役割も変化しつつあります。ここでは、イリノイ大学図書館を例に挙げて、大学内における図書館の役割遂行方法がどのように変化しつつあるかを見ていきたいと思います。

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の図書館は主要大学研究図書館の1つで、世界で最大規模の公立大学コレクションを有し、永久利用を目的として、印刷物の維持・拡充に専心しています。さらに当図書館は、機能ならびに主題専門家が作成・配信するデジタルコンテンツと多様なサービスへのアクセスを提供すると同時に、あらゆるフォーマットに基づくコンテンツへのアクセス性を高める新技術とツールを開発し、適用することをその使命としています。当図書館は、過去135年以上の間に多くの図書館をそのシステム内に設立・維持してきました。今日、大学全体を図書館と捉え(「図書館としての場所」)、コンテンツならびにサービスへのスムーズなアクセスを提供するという私たちの目標を達成するために、私たちは、学部別図書館モデルを活用すると同時に、それらの多様化を進めています;ユーザーとの物理的関係を近付け、長年にわたって取り組んできたコラボレーションの拡大を可能にする新しいモデルの活用と同様の他のモデルの試用に取り組んでいます。以下は、このような試みの一例です。

数年前、私たちは一人のバイオテクノロジーを専門とする「図書館司書」を雇用しました。この図書館司書が、物理的な図書館を持たない最初の図書館司書です。現在は、キャンパスのバイオ技術者たちと共に働き、彼らの研究に必要な情報の特定・認定・評価に協力し、彼らの主要チームメンバーとして多くの助成金申請書に名を連ねています。彼女は、自らのコレクション資金をデジタルコンテンツのライセンス化と購入に充て、バーチャルスペースに教職員や学生にとって非常に有用なウェブサイトを構築しました。物理的なスペースと異なり、このようなバーチャルスペースは必要に応じて変更することも可能なら、個人的な用途に合わせてカスタマイズすることも可能です。

訓練を受けたバイオ技術者として、彼女は学際的なグループ間に浸透している様々なリストサーブに積極的に参加し、自らもそのいくつかを管理しています。この図書館司書はキャンパスのバイオ技術者にとって非常に貴重な仕事仲間となり、その結果、彼らはキャンパスで建設中の新しい施設の中に彼女専用の小さなオフィスを作るように主張しました。皆さまのキャンパスではどのような状況なのかは分かりませんが、我が校ではスペースは非常に貴重な資源ですので、この一事を取ってみましても、多くの学際的グループにとって彼女の存在が如何に重要であるかが分かります。彼女は、学術的コンテンツの協力者・共同制作者であり、欠くことのできない貴重な仲間なのです。

35年前、我が校の女性学科の教職員が彼らの学際的ニーズを満たす専門図書館の設立を求めて戦い、以来、この図書館は彼らのプログラムの正統性を象徴する存在となりました。この図書館は、我が校の全コレクションから選抜した約2,500冊の書籍と学術雑誌を所蔵する非常に小規模なもので、女性学専門の図書館司書が1名雇われました。

私たちは最近、この図書館をメイン図書館からは幾らか離れてはいるものの非常に魅力的なスペースへと改修しました。ところが、昨秋、この女性学専門の図書館司書が私の所に来て、一日に来館する訪問者はせいぜい2名である上に、当図書館の職員がランチ、休憩、休みの時には代理としてその場に拘束されるため、女性学の教師や学生と過ごす時間が削られると訴えました。彼女は、この図書館を閉館して、その代わりに女性学センターの中にワークスペースを設けるように提案してきましたので、私たちは、主に当図書館の象徴的意義の消失に起因する政治的問題があったにも関わらず、彼女の提案を受け入れました。この夏、彼女はコレクションを本来所属していたそれぞれの図書館に戻し、私たちはこのスペースを大いに必要としていた図書館および女性学スタッフの会議室として使用する予定です。私たちは、今後、この転換結果を定期的に査定して行く予定ですが、私個人としては、この転換は成功すると確信しています。なぜなら、当図書館司書はユーザーが彼女の照会および指導的援助を必要としているその場に常駐することになるだけでなく、彼女のバーチャルスペース−彼女のウェブサイト−も、物理的スペースに比してユーザーニーズにより敏感に反応できるようになると思うからです。

彼女の同僚の一人である、現代語・言語学図書館に常駐しているスペイン語・イタリア語・ポルトガル語の担当図書館司書もまた同様の組織変更を実現しようとしています。彼女の図書館を訪れる教師や学生の数が激減するに従い、彼女の方から彼らの所に出かけて行く頻度が多くなって来ています。この為、外国語学部の建物の中に彼女のスペースを確保するように交渉した結果、彼女も近々、自分のウェブサイトとノートパソコンを持って彼らの所に移動することになりました。

このモデルもあらゆる学科に適しているわけではありません。例えば、化学図書館です。この図書館は、過去1世紀以上もの間、一度も改修されることもなく、化学部の建物の2階に位置してきました。ところが幸いなことに、学部用ラボの拡大工事に伴い、当図書館は1階のより広い場所に移されることになりました。この移動によって全体的なスペースは広くなるのですが、印刷コレクションの60%を高密度の施設に移動し、電子・印刷予約サービスを中央サービスに取り入れていかなければなりません。残りのスペースの大半は、グループ・個人の学習スペース、コンピュータアクセス、無線ネットワーク、十分な電気配線、図書館司書によるグループ・個人指導の場として使用する予定です。それから、利用頻度は減少していますが(最終的には他の目的に使用することになると思います)、従来の貸し出し・返却受付や照会受付も備える予定です。キャンパスの化学者の大半が同じ建物の中に居ますので、化学図書館司書も引き続き、これら化学者たちの研究の中心に居て協力することになります。彼女もまた化学者たちの重要な協力者と目され、助成金申請書の一部に名を連ねているだけでなく、彼女と代表教授の連名で複数のピアレビューも行ってきました。彼女は、彼らの仕事のサポーターから当学部の不可欠な一員へと移行したのです。彼女が立ち上げたウェブサイトやその他の物理的およびバーチャルな活動を通して、彼女は、化学の情報やサービスを必要とするキャンパスの化学者以外の人たちにも専門的なサービスを提供しています。

それぞれの学問分野が進化して、新しい学際的な学問が生まれるにしたがい、私たちの図書館もより広範囲の学生と教師により効果的・効率的にサービスを提供できるように、私たちは、狭い学問分野に基づいた図書館からの脱却を図るよう努めてまいりました。先に述べましたように、私たちの予算も厳しい状況下にあり、かつてのような体制で仕事を続けることはできなくなりました。教育・社会科学図書館は長年にわたり、教育・政治学・社会学・スピーチコミュニケーション・心理学・人類学・グローバル社会福祉などの社会科学分野における様々な学科のニーズに応えることができる資料と専門家を組み入れてきました。毎年、何千もの学生や教員のニーズに十分に応えて来たのですが、専門家たちは現状維持に満足せず、数年前、当図書館は連邦資金を獲得した教職員グループと協力して、従来のアプローチである特定分野・地域に重点を置くのではなく、世界の問題を重視したグローバル研究センターの設立に貢献しました。当図書館も協力者としてその資金の一部を受け取り、その結果、政治学専門図書館司書の勤務時間の半分をグローバル研究図書館司書としての仕事に割り当てることが可能になりました。この図書館司書はグローバル研究センターの中で、センターのウェブサイトの一部を管理し、ブログを運営し、リストサーブに参加するなど、センター活動の全てに関わっています。資金申請更新の時が近づくと、センターのディレクターが当グローバル研究図書館司書の勤務時間をフルタイムに拡大できないかと問い合わせてきました。同様に、初の学部専用棟の建設を予定している社会福祉学部もまた、当建物内に図書館を設立するのではなく、学部建物内外における学部活動の中枢に社会福祉専門図書館司書を取り入れる方法を検討するようにと依頼してきました。

私たちは、長年にわたって、特定フォーマット向け新聞専用の図書館分館を運営してきました。この分館は我が国で2番目に大きい規模の新聞コレクション(印刷物・マイクロフォーム)を有し、特に現在では入手不能なタイトルへの文献アクセス提供などに協力を得ているInternational Coalition on Newspapers(iCON)プログラムの創立メンバーでもあります。当新聞図書館の館長が退職を表明した時、私たちは、歴史・哲学図書館と新聞図書館を統合して一人の図書館司書の指揮下に置くことに決定しました。なぜならば、経済的・技術的・文化的・行動的要素の全てが変化を要請していたからです。図書館の資源をフォーマットという基準のみに基づいて組織化することは、図書館の利用を容易にするよりむしろ複雑にしてしまいます。私たちは、提供資料とサービスにおける変革を実施しないことは、私たちのコレクションを周辺に追いやり、ユーザーを疎外する危険を冒すことにつながると判断しました。現在、この統合図書館は、キャンパスの全ての学科・プログラムを通して歴史的研究に携わっている学生と教員にサービスを提供しています。新統合図書館は初心者および専門ユーザーの両者に研究資料を提供し、資料の検索・特定を援助すると同時に、研究計画構築に関するガイダンスを提供しています。各資料のフォーマットはデジタル媒体、印刷物、マイクロフォームと様々ですが、コレクションはコンテンツに基づいて組織化されています。この新しい図書館では職員配置を改革して予算の節約を実現しましたが、何よりも、多くの学問分野をカバーする研究者へのサービスを大幅に改善いたしました。また、ニュース報道を読むためのフォーマットおよび将来の世代がアクセス・使用できるように保存・アーカイブする最善の方法について、教職員・学生と協力して決定するための体制も十分に整いました。さらには、広範囲に及ぶ関連学問分野・相互関連学問分野における情報特定方法の指導についても、協力できる体制が整ったと言えます。

まだ学部統合や専門分野に基づいた組織構造から脱却するまでには至っていないものの、当校キャンパスのカレッジとスクールもまた構造改革を進めています。本日は時間も限られていますので、一例のみを挙げて説明したいと思います。大気科学科、地理学科、地質学科は統合して、新しい地球・社会・環境学部を設立する予定です。私たち図書館も、コンサルタントの援助を得て、また、グレンジャー工学部図書館のコンテンツと専門知識を取り入れて、地質学、地図、地理学の各図書館を新たに1つの図書館に統合するための詳細な計画を立てましたが、私たちも学部も、物理的統合には、最低でも5年、恐らくは10年はかかると考えています。しかし、学部がバーチャルレベルで統合できれば、私たち図書館もバーチャルレベルで統合することは可能です。コンサルタントの指導と新学部との協力の下に、現在、教員・学生が研究を行うこれらの新学際プログラムにバーチャル統合サービスを提供する計画を進めています。この計画は、私たちにとっては困難なプロジェクトとなるでしょうし、計画も完全に仕上がってはおりませんが、必ずやり遂げられると確信しております。

ここまで、「図書館としての場所」という概念についてかなりの時間を割いて考察してきましたが、時間の制約から「場所としての図書館」の意義については十分に焦点を当てることができません。私は、今世紀の終わりには前者のモデルが支配的になっているだろうと考えておりますが、私たちは、学習者コミュニティー・研究者コミュニティー・学際派コミュニティー・学習や社交の場を必要としている学生コミュニティーなどのコミュニティー構築に不可欠な、物理的な場としての図書館の運営も継続していきます。つまり、これらの場としてのスペースが、最新の設備を備え、快適かつ清潔な場所であり、21世紀の学生・研究者のニーズに応えられるように維持することも私たちの役割であり続けます。時間的制約のため、ここではこれ以上深く掘り下げることはできませんが、恐らく皆さまはこの後のセッションでこの点について話し合っていただけるのではないかと思います。

また、従来提供してきたサービスや共同作業の様々な局面を検討し、私たちの役割を拡大して、サービス提供方法を改革していく方法について考察するのに、1日はかかるでしょう。私たちは、私たちの全機能に関する新たな概念とその実施方法について入念に考察する必要があります。書誌的な各種の仕組みは一生ついて回る宿業にも似たものですから、この問題に焦点を当ててしまいがちです。しかしながら、これらの機能については、私の専門分野ではありませんので、他の図書館司書に任せましょう。その代わりにレファレンス担当司書としての私の前歴から、リファレンスサービスについてほんの少しですが触れたいと思います。

大学図書館司書は、貴重な研究援助の提供という長い伝統を有していますが、つい最近までこの機能は非常に受動的なもので、その呼び名もまた誤解を招くものでした。しかし現在では、私たちは図書館設備や人を介しての物理的なサービスを好まなくなったユーザーに、一連の不可解なエントリーポイントは言うまでもなく、非常に込み入ったサービスを提供しています。そして私たちの多くが双方向型のオンラインリファレンスサービスを提供しています。最初のオンラインカタログの利用者はテクニカルサービス担当者であったように、また、最初の電子リファレンスツールは印刷版のデジタルレプリカであったように、私たちの電子リファレンスサービスもまた、その大半が対面サービスのデジタルレプリカであると言えます。今こそ、私たちが20世紀に開発した非常に有益なリファレンスサービスについて、他の提供方法を模索する時だと思います。私もここで、2〜3のアイディアを提案したいと思います。

インフォメーション・コモンズから発展したラーニング・コモンズ―電子・物理的コンテンツならびに図書館司書と情報技術者による専門的な援助を学生に提供する場所―が米国の大学図書館で進行しています。キャンパスの学術情報テクノロジー部門のスタッフと協力して、私が所属する図書館も学部図書館に大規模なラーニング・コモンズを構築しつつあります。実は、このスペースの資金は、体育部局が当図書館のために調達してくれたものですが、このようなケースは米国でも非常に珍しく、私たちもとても感謝しています。私たちはこのプロジェクトで、他の図書館にとっても新しいモデルとなり得る2つの新しい試みを実施する予定です。まず、物理的な意味でのキャンパス中に、そしてバーチャル上でも、ラーニング・コモンズの概念を浸透させていく予定です。キャンパスベースの学習イニシアチブにとって重要な協力者であると大学関係者から推薦を受けた情報リテラシーコーディネーターの指導の下で、浸透したラーニング・コモンズの概念は、私たちの学習サービスを効果的に拡散・注入できるすばらしい機会を提供することにつながると思います。

2の試みは、スカラーズ・コモンズの構築計画です。教員と博士課程の学生を対象としたラーニング・コモンズと同様に、また、従来の研究者へのリファレンスサービスモデルの延長として、スカラーズ・コモンズは、専門設備、広範囲にわたる専門コンテンツ、学部生徒とは別の環境で教員や大学院生を援助する図書館司書と情報技術者などへのアクセスを提供します。この概念は現在まだ開発中ですが、完成した際には、皆さまにも是非訪問−物理的およびバーチャル上で−していただきたいと思います。スカラーズ・コモンズは、私の図書館が過去10年にわたってコンピュータ科学者・情報科学者・情報技術者・その他のキャンパス内外の専門家たちと協力して積み重ねてきた技術開発に基づいています。現在、私たちは、機関リポジトリのコンテンツ選択、より有効なOAIによるメタデータハーベスターの開発、新しいデータマイニング技術の開発・適用に関する方法を開発している所です。これは、私の図書館にとって非常に重要な役割であると思います。

これらの開発は全て時間のかかるものばかりで、当初の完成予定日を過ぎてしまう場合が往々にしてあります。ですから、この計画を成功させるためには、まず迅速に変更できる方法を開発しなければなりません。開発にあたっては、新しいモデルを通常のよりどころである大学に求めるのではなく、学外に求めるのがよいだろうと思います。といいますのも、往々にして大学は、新しいサービスや製品の迅速な開発を阻止する官僚的性質を有していることが多いからです。米国学術研究議会は最近の報告書の中で、急激な技術変革の時代にあって、引き伸ばしと無作為が高等教育にとって非常に危険な道であると警告しています。同報告書は大学に対し、最も重要な価値を保護しつつ、世界の急激な変化に適応していくように呼びかけています。さらに、その戦略として、技術傾向を把握して様々な行動方針を査定できる学内専門知識を十分に開発し、試験的な試みの機会を提供し、パートナーシップの構築を可能にするように提案しています。

ここで、私の図書館がこの秋に導入した小さなサービス、Internet Explorer専用ツールバーの開発について紹介したいと思います。これは、当館のウェブサイト検索、各分館ウェブサイトへの直接移動、リファレンスチャットやIMサービスへの接続、あるいは、カタログ・図書館間相互貸借(ILL)・オンラインリファレンスコレクション・コースリザーブ・RefWorks・コース管理システムを含むその他のキャンパスサービスへの直接リンクなどをユーザーに提供するすばらしい製品です。しかし、1つのブラウザー用のツール開発にほとんど一年かかりました。このペースでは、営利目的の企業では通用しないでしょう。

そこで、私たちにも関連する興味深いモデルが民間企業にもあると思いますので、彼らの運営方法についてここで簡単に見てみたいと思います。多くの企業が、観察・ブレーンストーミング・ラピッドプロトタイプ構築・改善・実施を内容とする簡潔かつ迅速なプロセスを開発しています。他の企業も、顧客にコンテンツ価値を提供するために、コンテンツコレクションの枠組を超えてモデルを拡大し、より選択的かつ分散された様々なサービスの提供に取り組んでいます。ユーザーの習慣に目を向けさえすれば、私たちにもこれら企業の成功の秘訣が見えてきます。多くの教員・学生が、引用文献検索に図書館のカタログを調べる前にまずAmazonを利用していますし、図書館の高価なデータベースや連合検索サイトからではなく、Googleから検索を始めています。その他にも、デスクトップ上に集合コンテンツサービスを提供するウェブログニュースリーディングソフト、RSSフィード、「プッシュ」テクノロジーによる関連資料の最新出版情報サービス、ローカル市場向けに一般コンテンツを編集し直してくれるポータル企業など様々な企業モデルがあります。私たちも、これらの企業技術、製品、プロセスを見習うか、あるいは、新サービスの開発・実施を迅速に実現する新モデルを開発する必要があります。いつまでも遅れを取っているわけにはいきません。

これは、私たちが常に世の中より遅れているという意味ではありません。実際、大学図書館セクターは、機関リポジトリを積極的に構築してきました。すなわち、大学の学術的成果、特には、会議論文・プレプリント・データセット・その他の正規出版の形を取らない学術成果など灰色文献などの成果を永久的に保存する手段を提供する(名称はよくない)機能です。その結果、個人のウェブサイトに現在論文を掲載している教職員は、今後、永久アクセスが保証され、教材を再利用でき、研究助成金に基づいて作成されたデータセットをいつでも確認・利用・更新できる場を得られるのです。イリノイ大学では、このような機能の開発・実施を率先していくことが図書館の役割であると考え、キャンパス情報技術部との協力と学長のサポートの下に、IDEALS(Illinois Digital Environment for Access to Learning and Scholarship)を作成しました。まだ開発の初期段階ですが、すでに多くの教職員が当サービスの申し込みリストに名を連ねています。その一方で、私たちは、キャンパスの問題解決にIDEALSを利用できる機会をねらっています。最近、大学院が学生たちの学位論文や博士論文をデジタル化してデポジットするためのあるサービスで、論文データのコピーをIDEALSに登録することが非常に高くつくと知って、私たちは、同じサービスをより低いコストで提供するサービスを計画し始めました。

皆さまもその他多くの優れたモデルをご存知でしょうし、皆さまご自身も将来について、私のアイディアよりも優れたアイディアをお持ちだと思います。これらの機会はとてもエキサイティングなものですが、私たちが直面している財政的圧力に鑑みると、これらの発展をサポートする十分な資金を確保するためには、2〜3のサービスポイントを強化する以上の試みが必要になると思われます。私の図書館も、現在多くの場所に拡散している図書館の主要機能を中央化する方法を模索しています。現在、メインの図書館だけでも20以上のサービスポイントがあります。このような体制は必要以上にコストがかかるだけでなく、かえってユーザーを混乱させますので、私たちは情報リテラシーの調整と保存を集約化し、20年以上も前に分離したいくつかのテクニカルサービス部門のユニットを現在再統合している所です。また、ほかの財源の調達についても努力を続けています。

私たちの図書館は、個人や財団からの資金調達活動に多大な資源を投資しています。現在、イリノイ大学は、「コレクションと保存」、「図書館司書の地位の確保」、「図書館施設の改修・建設」という図書館の3大優先課題をサポートするために、3,000万ドルの資金調達キャンペーンを展開しています。私は、勤務時間の3分の1を使って資金調達活動に専念していますが、大学システムの新しい学長は、私たち役職者に対してさらに多くの時間を資金調達活動に費やすことを要請しました。私が別のより小規模の研究図書館を率いていた15年前には、今よりずっと多くの時間を実践的な指示のために充てることができました。大学図書館の役割が変化するにしたがって、大学図書館司書や大学図書館長の役割もまた変化することは言うまでもありません。

 

結論

大学図書館がその役割を担っていくうえでの方法を変革するために利用可能ないくつかの機会について話してまいりました。言うまでもなく、ここでのお話はとうてい網羅的ではなく、私が提案したアイディアについても、皆さまもすでにいくつかの別の案をお持ちであることと思います。

私が住んでいる環境が「楽園」だから、これらの改革を実現することができるのだという印象を皆さまに残してこのスピーチを終えることはできません。私たちの成功の前にも数多くの障壁があります。具体例を挙げれば;財源不足、地域・国家・グローバルレベルでの情報政策、社会的傾向に対する理解の不足、現在の学生と将来の学生の嗜好などです。しかし、私は、これらのうちのいずれもが最も重大なものだとは思いません。ポゴを覚えていますか?私がこの講演の最初に言及した漫画のキャラクターでしたよね?彼の印象的な言葉をもう1つご紹介しましょう。「私たちは敵に出会った。その敵は私たち自身だった。」私たちが、旧来の方法、書誌的な仕組み、何をどのように行うかについて考え方を変えることをよしとしないこと、完璧主義に固執しているうちは、私たちの成功に対する最も厄介な障壁は私たち自身なのです。OCLCが私たちの前に示したビジョンを達成しようと真剣に考えるのであれば、私たちはまず、私たち自身を乗り越えなければなりません。

より少ない努力でより多くの人たちに貴重なコンテンツとサービスを提供していくうえで、将来について多くの選択すべきことがあります。それぞれの図書館が、その使命と目標を達成するための最良の方法を選ばれると思います。私たちの選択は、所属機関の向上心、組織文化、学術コミュニケーションにおける変化、新たなチャンス、変化する価値、公共政策、リスクへの耐性、そして私たち自身の意思といった、数多くの要因に依存します。私たちが全く同じ選択肢を選ぶはずはありませんから、共通点は今後ますます減少していくでしょう。しかし、もし私たちが成功すれば、私たちは−協働者パートナー、そして共同制作者として、私たちの機関組織のより重要な一員となると思います。私たちはこのようなプロジェクトを自分たちだけで達成することはできません。われわれ自身の組織の内外に強力な連携体制を築いていかなければなりません。私たちはリスクもなく、自らの道に留まり、自らの敵となる限り、成功することはないのです。皆さまにも新しい道を切り開き、このわくわくするような冒険を続けていっていただきたいとお勧めいたします。

ご清聴ありがとうございました。

 

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