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電子ジャーナルの資料特性と組織化 -NACSIS-CATの課題と展望- |
2003.12.18 |
資料組織研究分科会 |
【はじめに】 近年、情報技術やインターネットの急速な発展により様々なデジタル資料が登場し、図書館サービスに多くの影響を及ぼしている。特に物理的実態のないネットワーク情報資源の出現は、資料の保存を主要任務の一つとしてきた図書館に、アクセスの保障という新たな役割を迫ることとなった。その中でも従来の蔵書と関連の深い電子ジャーナルの普及は目覚しく、速報性が期待される科学・技術・医学分野を中心に利用ニーズも高まっており、図書館への導入も本格化している。電子ジャーナルを効果的に組織化し提供することが急務であるが、冊子体資料との特質の違いにより、従来の組織化方法では無理が生じるため、現状ではまだ試行錯誤の段階であると言えよう。 そこで電子ジャーナルの組織化について国内の現状を踏まえ、電子ジャーナルの資料的特性を把握し、さらに書誌作成における問題点を身近なNACSIS-CATの事例を通して見直すことによって、組織化の方向性を探りたいと思う。 | |
1. 国内の現状と問題 先ず電子ジャーナルに関する目録規則等の内外の動向を簡単に追ってみる。1997年にISBD(CF:Computer File)が改訂され、ISBD(ER:Electronic Resources)という新たな章名に変わり、物理的実態の伴わないリモートアクセス型の資料への規定が追加された。これに応じて2001年に英米目録規則第2版(AACR2)1998年改訂版第9章”Computer File”も”Electronic Resources”として内容が修正され、2002年改訂版へと適用された。日本国内においては、同じく2001年に日本目録規則(NCR) 1987年版改訂2版第9章が”コンピュータファイル”から”電子資料”へと改訂された。また、2002年には逐次刊行物に関する規則についても動きがあり、ISBD(S:Serials)はISBD(CR:Continuing Resources)として変更、AACR2 2002年改訂版でも12章は”Serials”から”Continuing Resources”に変わり内容も大幅に改訂された。 これにより、継続刊行される資料は、従来の逐次刊行物(Serials)とWebページやルーズリーフ等に代表される更新型資料(Integrated Resource)とに区分されることになった。さらに関連の動向として付け加えると、インターネット情報資源の発見およびアクセスの効率化のため、1996年にDublin Core Metadata Element Setが提案され、メタデータとしての組織化という従来とは異なる方法も可能となった。 国内の大学における現状については、調査の結果、電子ジャーナルは主にリンク集のようにリスト化された形で組織化・提供されていることがわかった。2003年4月に全国役100大学の図書館ホームページにアクセスして得られた結果によると、約90%が電子ジャーナルリンク集を提供している。記述形式は機関によって異なるが、タイトル・出版社/アグリゲータ・アクセス可能年次が共通する主な要素と言える。また、契約タイトル数の多い機関では、単なるタイトルリストではなく検索機能等の付加機能を設けている例も見られた。 さらに、組織化において先進的な取り組みを実施していると思われる幾つかの機関に状況を質問したところ、OPACで蔵書として検索できるよう電子ジャーナルの書誌レコードを作成しているケースもあった。作成方法は、冊子体の書誌に出版社や電子ジャーナルのアクセス先のリンクを追加する形、あるいは電子ジャーナルを別書誌としている形があり、採用規則はAACR・NCR、NIIコーディングマニュアル、あるいはコーディングマニュアルを基に自館用に作成したもの等様々である。また、比較的大規模な機関では、電子ジャーナルリンク集に加え、インターネット情報資源の一部としてもメタデータを作成し、サブジェクトゲートウェイ等で提供している場合もある。このように国内の大学における状況は様々であり、いずれも手探りで組織化・提供方法を最適化しようとしている様子が伺える。 書誌ユーティリティ国立情報学研究所(NII)におけるNACSIS-CAT関連の動向としては、先ず2000年8月「電子ジャーナルの取扱い(暫定案)」が公開されコーディングマニュアルにも追加されたことが挙げられる。その後2001年には大手6社の電子ジャーナル書誌・所蔵がNIIによって一括登録されている。しかし、現在、NIIへの電子ジャーナルの書誌登録を行っている機関は非常に限られており、登録件数も伸びていない (図表1)。 電子ジャーナル自体が流動的な性質を持ち、不確定要素が多い状況下、対応に苦慮している館が多いと伺える。また、NIIはNACSIS-CAT以外の電子ジャーナル関連の取り組みとして、メタデータ・データベース共同構築事業やNII-REO(電子ジャーナルリポジトリ)を展開しているが、現在のところは試験提供中の段階である。 現行の組織化方法の問題点は、リンク集やメタデータ作成では、基本的に電子ジャーナルと冊子体資料を別個に検索する必要があり、書誌間の連携が不十分と言える。また、書誌レコードを作成する場合でも、電子ジャーナル独自の記述方法が確立していないことや作業負荷の大きさが問題となる。今後は、統合検索の実現により冊子体と電子ジャーナルの一元検索を可能にすること、記述の標準化を図り作業負担を軽減することが主な課題と考えられる。 これらの事情を含めて組織化の状況を大局的に捉えると、現在考えられる幾つかの組織化方法の中から適切な方法を選択する必要があると思われる。記述方式に関しては、AACR・NCR等の従来の目録規則に従ったMARC作成だけでなく、Dublin Core (LAP : Library Application Profile)やMODS (Metadata Object Description Schema)のようなメタデータスキーマを利用する選択肢もある。どちらが適切かは、各規則のスタンスや目標とするサービスを考慮して判断すべきであるが、電子ジャーナルが冊子体資料と深い関連性がある以上、両者を単純に同一の方式で捉える方が現在のところは現実的ではないだろうか。さらに、前述の一元検索・作業負担の軽減の課題を考慮すると、書誌ユーティリティNIIでの運用つまりNACSIS-CATでの電子ジャーナル書誌レコード登録が、一つの方向性として考えられる。しかし、現行目録規則やNIIコーディングマニュアルは冊子体の延長として電子ジャーナルを捉えている要素が強く、より現状に即した指針作りが必要である。 | |
2. 電子ジャーナルの特性 組織化において考慮すべき点を探るため、記述対象である電子ジャーナルの資料的な特質を様々な側面から捉え、冊子体との比較を通して、両者の一般的な相違点・共通点を洗い出してみる (図表2)。なお、本稿ではリモートアクセス型のオンラインジャーナルに限定して取り上げ、CD等のパッケージ型の電子ジャーナルについては言及しない。 | |
2.1 資料属性的側面 書誌的概念の視点で区分すると、電子ジャーナルは雑誌としての特質とネットワーク情報資源としての特質を併せ持つと言える。これは、物理的実態がなく内容が更新されるネットワーク情報資源の中でも、タイトル・巻号・年月次の概念を持ち、継続的に刊行(追加・更新)される特殊な資料である。また、基本的に論文ファイルの単位では内容が変更されず、より上位の情報単位が更新されるという特徴もある。 | |
2.2 出版・流通的側面 出版プロセスは、ソースを物理的実態のある媒体に印刷したり、移動したりする手間が簡略化される。また、オンライン上で論文を先行公開するサービスも多い。 出版形態は冊子体に比べて複雑で、様々な機関が様々な役割を担っている。冊子体と電子ジャーナルの出版社が異なる場合もあり、さらに複雑なケースでは、2次情報データベース事業者がフルテキストの提供サービスを行う場合もある。電子ジャーナルの提供方法は、主に次のように分けられるだろう。 @学術雑誌出版社による自社ジャーナル 例) ・パッケージ系: Science Direct (Elsevier Science) ・独立系: Nature (Nature Publishing Group) Aデータベースプロバイダ等が出版社からデータを購入してオリジナルのシステムで提供 (アグリゲーションサービス/ゲートウェイサービス) 例)Ingenta、HighWire Press @は、データの更新は早いが、他出版社との相互利用(リンク・横断検索等)の機能が不十分で、出版社ごとに利用形態が異なり、Aは一元的アクセス(利用・契約)が可能だが、収録雑誌の網羅性が不十分で、データの更新が出版社に比べると遅いことがそれぞれの特徴である。 | |
2.3 管理・提供的側面 入手方法は、物理実態がないため現物の売買ではなく、出版社からアクセス権が供与される形がとられる。有料・無料があり、パッケージ契約やコンソーシアム契約等は、契約タイトル数が多いことが特徴である。図書館における主な管理業務は、契約内容通りに利用可能であるかアクセス状況を確認することが中心であり、チェックイン等の現物管理が不要である。利用に関しては、冊子体と同じく著作権や出版社の規定等の制約に加え、契約内容(ライセンス数、同時アクセス数、IPアドレスの範囲等)に応じて、出版社側からユーザー管理を受けるため、冊子体よりも利用に際しての管理が厳密と言える。また、契約終了後のバックファイルへのアクセス保障が不明確のため、保存性に問題があることも周知の事である。フルテキストへのアクセス経路は、2次情報データベースの検索結果からシームレスに論文ファイルを開けるようになったこと、出版社の提供する電子ジャーナルの検索サービスサイトの利用によって多様化し、図書館OPACを介さないアプローチも可能となっている。 | |
2.4 機能的側面 2次情報データベースとの連携や、レファレンスリンク等に見られる引用/被引用文献間のリンクにより、関連情報とのリンク機能がある。また、全文検索・タイトル検索・主題別検索等、出版社の提供する様々な検索機能を利用できるため、論文単位での流通が可能である。 | |
2.5 構造的側面 提供者によってサイトの構造・構成要素が異なるため、情報単位が複雑で不明確である。また、各情報単位がリソースを特定する識別子(URL、DOI等)を有する。 | |
2.6 組織化への影響 上述の特性の中で次の要素が組織化において影響すると考えられる。 ・出版・流通の複雑さ(出版社、アグリゲータ、2次情報DB事業者等が入り組んだ状況) ・情報の変動性(出版者側の事情で変動する事項:リソース(論文ファイル)のアクセス先、提供方法、契約方式等) ・情報構造の不明確さ複雑さ (サイトの構造が出版者によって異なり、永続性がない) これらは具体的に以下のような問題や課題につながると思われる。 ・書誌作成単位や情報源特定が困難 ・冊子体との不整合 ・電子ジャーナル特有の記述要素(アクセス先/更新日等)への対応 ・出版事項やアクセス先のメンテナンス ・契約タイトルおよび条件の一括変更 | |
3. 電子ジャーナルの目録について これまであげた電子ジャーナルの特性は従来の図書館資料(印刷媒体)とは異なる点が多いため、現在使用されている目録規則をあてはめて記述した場合、さまざまな問題が生じてくることが考えられる。以下、「目録作成の基準」「記述要素」「書誌関連性」についてNII目録システムコーディングマニュアルを中心にその問題点に焦点をあてて検証をしたいと思う。 | |
3.1. 目録作成の基準 3.1.1 書誌単位の確定に関する問題点 国立情報学研究所の目録システムコーディングマニュアル(以下NIICMとする)の電子ジャーナル書誌記述の適用範囲(6.0.4A)で「電子ジャーナルは逐次刊行物の定義に合致し、ネットワーク上で提供されており、図書館でアクセスが保証されているもの」と規定されていることから、NIIにおける記録の書誌レベル(書誌単位)は日本目録規則(以下NCR)9章の記録の書誌レベル(9.0.2.2)で規定されている逐次刊行レベルを目録作成の基準として考えることができる。 定期的に内容が更新されている情報のまとまりを逐次刊行レベルとして考えると、冊子体が存在し明確な巻号表示があるものは書誌レベルの把握が容易であると考えられるが、それ以外の明確なデータ更新のまとまりがないものは書誌レベルの判断が難しいのではないかと考えられる。 | |
3.1.2 情報源について NIICMの記述の情報源に関する規定(6.0.4C)よれば記述の情報源を下記のように定めている。 (1)タイトル画面(ページソース等のメタデータを含む) (2)その他の内部情報源(メニュー、プログラム記述、リードミー・ファイル、索引等) (3)その他の情報源 情報源自体が最新のものに変更される為、確認できる最新の情報源の記述を基準とする。 これは、前述のNCR第9章 電子資料(1987年版改訂版)9.0.3.1でもほぼ同じ内容となっている。 印刷媒体(図書・逐次刊行物)の場合、標題紙、奥付等の規定があり(NCR、AACR等)目録作成者が違う場合でも、同じ印刷資料であれば同じ目録ができる。それに対し電子資料は内部情報源として大まかな規則になっている。電子ジャーナルの場合、形式として紙媒体の逐次刊行物資料を引きずっている為、現行の目録規則で対応できるが、情報源について、全体的なものでしか規定できないため、目録作成者の判断により目録として精粗が生じる可能性が高いのではと考えられる。 また、メタデータでも記述要素(エレメント)のみ規定し情報源の規定はないため同じことが言えるのではないだろうか?電子ジャーナルを含めた電子資料の情報源を規定するには概念規定が必要とも言える。 | |
3.1.3 書誌・所蔵の概念の違い 書誌レコードの作成基準(6.0.4B)において ネットワーク上の電子資料と冊子体やCD−ROM等の異なる資料種別は別書誌。(B1) タイトル変遷が発生した場合、別書誌を作成し利用不可能となった書誌も残す。(B2) 冊子体の書誌・所蔵の概念は共通する書誌に各館の所蔵を加えることでWebcat上のデータが成り立っている。しかし電子ジャーナルにおいては先に述べたように共通する書誌の作成が困難であること、また電子ジャーナルの図書館における所蔵の概念は「提供の保証=所蔵」とする考え方が一般的であり、NIICMでも電子ジャーナル書誌記述の適用範囲(6.0.4A)を『図書館でアクセスを保証できるもの』としている。これらの理由から、提供不能になった時点でWebcat上では削除されると考えられるが、書誌レコードの作成基準(6.0.4B)においては提供不可能となった場合の書誌の情報を残す規定になっている。 | |
3.2記述要素 3.2.1 資料種別 機械可読データファイルを示すコード「w」,リモートファイルを示すコード「r」を記録する規程があるが、SMD(特定資料種別)の入力は”選択”とされているため、現実の記述に違いが生じている。 | |
3.2.2 注記に記載する項目について NIICM及びNCRにおいては利用・権利・アクセス情報・更新・古いアクセス先といった電子ジャーナルに特徴的な情報は一括で注記項目への記述となっている。注記はすべてレベルが”選択”であることから、非常に重要な情報にもかかわらず、目録作成者によって記述に精粗が生じる場合がある (図表3)。電子ジャーナル固有の更新・アクセス・利用については資料そのものだけではなくアグリゲータ側の提供方法や契約により左右される部分が大きく、書誌作成にも影響を与えると考えられる。従って、利用者に混乱をきたさないよう統一された情報提供を行うためにも、電子ジャーナル独自の事項については記述レベル及び内容を再検討する必要がある。 その際、検索時にアクセスポイントとして設定したほうが良いもの(最終更新日等)も存在すると考えられるため、IDENT以外の新規フィールドを設けることを含めて検討を行うべきであろう。メタデータで作成した場合を想定すると、@資料種別及びA注記については、それぞれ、下記のエレメンツにより表現できる可能性がある。 @Type AFormat, Source, Coverage, Rights | |
3.2.3 タイトル変遷の記述について 前述の「書誌・所蔵の概念の違い」の項でも述べたようにNIICM6.0.4Bにより、タイトル変遷が行われた場合は変遷前のタイトルとして利用不可能になったとしても,変遷前と変遷後で別の書誌レコードを作成する規程となっている。すなわち、利用不可能もしくは消滅した電子ジャーナル書誌を記録として残しておくという考え方である。利用不可能となった時点で記述の正当性について確認することも不可能になると考えられ混乱を招く懸念と、消滅した電子ジャーナルの書誌に対応する冊子体がある場合、その関連性の類推や、アクセス可能期間の記録、参照文献としての存在確認のためのデータの必要性を考えると、書誌を残す場合、次に述べる他の書誌との関連性や所蔵時期等の記載が必要ではないかと考えられる。 | |
3.3書誌関連性 3.3.1 データ内部の関連性 電子ジャーナルを目録記述の対象とする場合、アクセスの際に有用となる上位・並列の情報( 出版社のサイトへのリンク等)を、より総合的に記述するのが望ましいのではないだろうか。しかし、階層から階層への連絡(リンク)が容易なことが逆に階層構造を把握しにくい要因でもあり、またこれを記述する場合、カタロガーによって記述に誤差が生じる可能性がある。電子ジャーナルを組織化する場合、この特性を生かした規則とその階層が全体の中のどこに位置するのかを記述する項目を設定できれば、利便性が増すと思われる。また、情報源、書誌単位にも関わってくることであるが、トップページでも、一論文でも電子ジャーナルにおいては書誌を作成しようと思えばできる状況にあるため作成の基準を決めておくことも必要である。従来の図書館目録(カード目録)は、一次資料に辿り着くためのものでしかなかったが、ネットワーク時代の図書館目録(OPAC)は、二次資料でありながら、一次資料へのアクセスが可能である。電子ジャーナルにおいても、タイトルページだけの書誌だけではなく、そこから各論文に簡単にアクセスできる目録の記述が理想的である。 | |
3.3.2 他の媒体(冊子体等)との関連性 国立国会図書館のメタデータベースでは、Webページ、電子ジャーナルを含むネットワークリソース併せて組織化されているが、NIIのNACSIS-CATにおいて電子ジャーナルは、冊子体の延長とみなされているためか、メタデータベースの目録ではなく、従来からの図書資料等の目録の中に書誌が作成されている。また、電子ジャーナルの書誌記述については、コーディングマニュアルが作成されているが、書誌関連性に限らず、「注記」に記述する内容が多い。電子ジャーナルを冊子体の延長と捉えがちなのは無理もない、しかし利用者にとっては、その一次資料がどのような形態であろうとも、自分が求める資料がすばやく手に入ればいいので、冊子体との関連性はきちんと記述することが望ましいのではないだろうか。その特性をきちんと把握して、何を記述すべきか、否かを考えることが必要なのではないだろうか。(現時点では、NACSIS-CAT上で電子ジャーナルの書誌で冊子体との関連についての記述は見当たらない)冊子体と同じ内容の電子ジャーナルがある場合の記述は、並存していた冊子体の発行がなくなった場合や論文単位で情報を入手したい場合とても重要な情報であると思う。 | |
3.4 まとめ これまでの考察を振り返ると、NACSIS-CATにおける電子ジャーナルの書誌作成の意義が従来とは異なるのではないかと感じられる。現在、NACSIS-CATは書誌ユーティリティとして共同目録と同時に相互協力のツールとして大きな役割を担っているが、電子ジャーナルについては書誌調整機構としての役割の比重が増すと考えられる。現状では、電子ジャーナルは契約条件によってはILLや外部来館者の利用が制限されることがあるため、今後出版社側から許可されない限りILLを目的としたNACSIS-CATの利用は冊子体と比べて僅かなものであるだろう。一方、書誌調整については、各図書館における人材不足や、多様な記述要素を組織化することの困難さを考慮すると、総合・統一された書誌を作成・提供する意味は少なくないと思われる。また、これまで述べてきた目録上の問題は、記述の準拠となる現行の目録規則等が、物理的実態のある資料を基礎として補足的にネットワーク型情報資源に対応していることも一因であると考えられる。現在の電子ジャーナルは冊子体を電子化したものとしての位置付けが強いため、大きな問題にはならないが、物理形態・発行形態の相違点を乗り越えるには、FRBR(Functional Requirements for Bibliographic Records)等のような同一内容の異形態資料の対応を考慮した新たな書誌概念に基づく目録規則の構築が求められるのではないだろうか。 | |
【おわりに】 今回の研究では、カタロガーの立場で組織化の対象である電子ジャーナルを観察してみたが、図書館側で把握・管理すべき情報が多くしかも複雑であることが問題の根底にあると感じられた。電子ジャーナルは、リソースを保持し利用権利を供与する側(出版社等)の事情や利害によって状況が変化しやすく、利用条件にも直接影響する。そのように流動性の高い資料の組織化を促進するには、書誌情報の作成・管理に携わるスタッフが、電子ジャーナルに関する最新事情や契約内容等の周辺情報を把握することが必要だと思われる。規則の整備に併せて、電子リソースに関する知識を備えた人材を育成することも今後の課題の一つだろう。 電子ジャーナルは前述の通り流通等における方針が確立されていない段階にあり、今後も状況は変化し続けると思われる。今回はNACSIS-CATでの書誌作成を取り上げたが、パッケージ化された有料の書誌情報を利用する等、考えられる組織化方法は幾つかある。さらに、検索技術やリンキングシステムの向上まで視野に入れると、組織化方法については継続的な検討が必要であると思われる。今後は、環境の変化を視野に入れながら、各機関の利用者のニーズや内在する事情に応じて、それぞれに最適な組織化方法を模索していくことが重要と言えるのではないだろうか。 最後に、当研究を進めるにあたって、質問に丁寧に対応してくださった国立情報学研究所開発事業部ならびに各大学図書館の方々に深く感謝いたします。 | |
参考文献 1)望月沙織 「メタデータと図書目録」 http://www.ulis.ac.jp/~sekiguch/johoshak/vol5/mochizuki.html 2)伊原 尚子 「総合目録データベースにおける電子ジャーナル 電子ジャーナル入力指針(私案)」(総合目録データベース実務研修レポート) http://www.nii.ac.jp/hrd/HTML/Db/report/h10/ihara.pdf 3)柳原 恵子 「電子資源(Electronic Resources)の情報をNACSISで記録するために」(総合目録データベース実務研修レポート) http://www.nii.ac.jp/hrd/HTML/Db/report/h10/yanagihara.pdf 4)北克一、村上泰子「電子資料と目録規則」『図書館界』 53(2):2001 5)渡邊隆弘「図書館目録とメタデータ」『図書館界』 53(2):2001 6)倉橋英逸「リモートアクセス電子資料への図書館の挑戦」『薬学図書館』47(1-2):2002,p.81-84 7)目録記述におけるインターネット上の情報資源の記述法−メタデータを中心に− http://wwwsoc.nii.ac.jp/anul/Kdtk/Rep/71/s2.html 8)宮澤彰『図書館ネットワーク−書誌ユーティリティの世界』 9)国立国会図書館編『電子情報時代の全国書誌サービス−第1回書誌調整連絡会議記録集』 10)「学術情報の流通基盤の充実について」(審議のまとめ)平成14年3月12日 参考資料(1)学術分野における出版の現状と電子化の推移(2)電子ジャーナル出版点数の推移 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/toushin/020401.html 11) 堀池博巳、吉田暁史 「ネットワーク情報資源の組織化」『図書館界』Vol.55(2) 2003.7 12)国立情報学研究所目録システムコーディングマニュアル 13)日本図書館協会 『日本目録規則1987年版 第9章 電子資料』 14) The Library of Congress Cataloging http://www.loc.gov/catdir/ 15) Dublin Core Metadata Initiative http://dublincore.org/ 16) 鹿島みづき 「MODS:図書館とメタデータに求める新たなる選択肢」『情報の科学と技術』53(6): 2003, p.307-318 17) IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Recordsa 「Functional Requirements for Bibliographic Records Final Report」 http://www.ifla.org/VII/s13/frbr/frbr.htm |
Update:2004/3/31 資料組織研究分科会 |