利用者志向目録―その手法とアメリカに見る先駆的な取り組み
(1.はじめに)はじめに
図書館目録は、カード目録から、OPAC、そしてインターネットの登場によってウェブOPACへと進化を続けてきました。しかし近年、アメリカを中心に、従来のウェブOPACを見直して、利用者の情報検索行動に即した新しい目録(この発表では利用者志向目録と呼ぶことにします)を提供しようという動きが始まりました。この動きの背景には次の2点が考えられます。
(1.1.1 利用者志向目録が生まれた背景)
まず一つ目にインターネットの普及により、物理的形態を伴わないネットワークリソースが急激に増加したことがあげられます。これらのネットワークリソースに対しメタデータを作成し組織化することが近年進められています。日本ではNIIが提供している「GeNii:NII学術コンテンツ・ポータル」の中の、大学Webサイト資源検索(JuNii大学情報メタデータ・ポータル試験提供版)において、各大学、研究機関が発信している情報のポータルサイトを目指して、各情報にメタデータを付与し、研究成果のデータベースを共同作成する事業が開始されました。
これらメタデータと従来の図書館目録の互換性を持つことの重要性について、またフォーマットをどうするかについては近年議論されているところですが、図書や雑誌といった従来の冊子体資料と内容が同一であるネットワークリソースも存在しており、どのようなフォーマットにするのであっても、図書館では従来の所蔵資料の目録と、「所蔵」の概念を持たないネットワークリソースを一元的に検索し、提供できる仕組み、目録作りが必要であるといえるでしょう。
(1.1.2 利用者志向目録が生まれた背景(2))
二つ目に、検索エンジンの普及が挙げられます。検索エンジンは、検索ボックスにキーワードを入力するだけで、自ら情報を簡単に発見できるため、検索ツールとして一般的となっています。検索エンジンは、検索語として入力したキーワードの重要度やキーワード間の近接度を自動的に解析してランク付けするなど、高品質の検索結果を提供しています。
(1.2 図書館のOPAC)
一方で、図書館のOPACは検索結果がランキング表示されず、求める情報が載っている資料を見つけるのは、検索エンジンで求める情報を得るよりも労力がかかるといえるでしょう。(2003年7月にカリフォルニア大学のMarcia Bates教授が発表したベイツレポートによれば、最も好まれる検索方法はブラウジングで、検索式においては、一つか二つの検索語しか用いられず、検索語の修正はあまり行われないということでした。現在、図書館の所蔵目録が十分に活用されているとはいいがたいのではないでしょうか。
(1.3検索エンジン世代にアピールする目録とは)
検索エンジンを使い慣れた世代にアピールできるような、新しい目録とはどのようなものでしょうか?この発表では、アメリカで始まった先駆的な取り組みを中心に、新しい利用者志向の目録の記述方法や、利用者への見せ方を紹介します。
(2 記述方法)
まず記述方法 − ダブリンコア、MARCXML、MODSの順で説明していきます。
(2.1 Dublin Core)
ダブリンコアとはDublin
Core Metadata Initiativeで進められている、どのメディアにおいても汎用的に使えるメタデータ記述のための語彙を開発するプロジェクトのことで、開発されている語彙そのものをDublin Coreと表すこともあります。OCLC本部のあるオハイオのダブリンで最初の会議が行われたことからDublin Coreという名前がつきました。
(2.1.1 DCの目的)
ダブリンコアはネットワーク情報資源の発見を目的とし、メタデータの「相互利用性」を重視して提唱されたメタデータ作成規則です。
(2.1.2 DCの特徴)
ダブリンコアの特徴としては
・情報専門家ではない個々の情報作成者でも作れるように、基本的な「コアエレメント」を規定しようとしていること
・エレメントの意味的定義に特化した規則で構文規定を持たないこと
・コアエレメントは15要素が規定されていること
・15エレメントのすべての項目はオプショナルかつ繰り返しが自由であり、入力必須項目といったものは存在しないこと
の4点が挙げられます。
(2.1.3 DCの基本15エレメント)
Dublin Coreの基本15エレメントはこのとおりです。
@Title:タイトル
ACreator:制作者、リソースの内容に責任を持つもの。
BSubject:テーマ、リソースの内容が持つトピック。
CDescription:詳細、リソース内容の説明。
DPublisher:提供者、リソースの発行に責任を持つもの。
EContributor:協力者、リソースの内容に協力しているもの。
FDate:日付、リソースに関する主要な出来事が起こった日付(更新日、作成日など)を記述する。
GType:タイプ、リソースの内容が持つカテゴリ、ジャンルなど。
HFormat:フォーマット、リソースが持つ物理的/デジタル化されている性質。
IIdentifier:識別子、曖昧さのないものが必要とされる。
JSource:ソース、リソースが参照しているもの。
KLanguage:言語、リソースが書かれている言語。
LRelation:関連するリソース。
MCoverage:リソースが示す範囲。
NRights:権利。著作権や知的所有権などの権利に関する情報を記述する。
(2.1.4 DCの「拡張可能性」)
Dublin Coreの基本理念の一つとして「拡張可能性」があります。Dublin Coreは完全に自己完結した規則ではなく、分野や地域ごとのコミュニティや各機関等が独自に項目を追加していくことを認めています。2000年に具体化された拡張として各エレメント内にサブエレメントを設定する「qualifier」の導入があります。qualifierによって、15エレメントという基本の簡略さを保ちながら、必要に応じて詳細な記述もできるようになったのですが、これによる表現力には限界があります。
(2.1.5 DCのDumb-Down原則)
それは数年にわたるqualifierに関する議論の過程で、著者(Creator)エレメントに対して名前・役割表示・所属といったような「構造を持つ値」を示すqualifierは認められないと決定されたことによります。この決定は「qualifierを定義する場合、qualifierを含めて書き表したメタデータからqualifierを取り除いても値とエレメントの間に矛盾が生じてはならない」という、相互利用性を守るための原則(Dumb-Down原則)に抵触するためです。つまりDublin Coreによるメタデータは、フィールドの追加などはできたとしても、平板な構造のデータ表現しかできないということです。
(2.1.6 DCの評価)
以上より、Dublin
Coreは、“電子図書館資料に対するメタデータ作成規則として、図書館を超えた広いレベルでの情報交換という点では大きな有効性はあるが、情報専門家たる図書館が作るメタデータのための標準としては表現力に制約があり、不十分と言わざるをえない”という評価がなされています。
(● MARCXML,MODSの開発の経緯)
次にMARCXML,MODS の説明にうつります。MARCXML,MODSはなぜ必要とされたのでしょうか?それは、次世代においてXMLがHTMLにかわってWEBで使用されて普及するのではないかと予想され、XMLはHTMLに比べて柔軟で大きな利用価値があるので、“XMLが必要である”という要望が、アメリカでは出されたそうです。LCとしてはMARCがコンピュータ利用を可能にした恐らく最も古いメタデータ基準であることを踏まえれば、MARC21のXMLバージョンの可能性を模索することは当然の動きであったそうです。
(2.2 MARCXML)
それでは具体的にみていきます。MARCXMLは米国議会図書館ネットワーク開発・MARC標準局が開発したXMLスキーマです。
スキーマとは、誰でも理解できる一定の規則のことで、XMLスキーマとは、XML文書で使用されるタグの定義を記述するためのものです。
(2.2.1 MARCXMLでできること)
MARCXMLは、MARCとXMLとの相互交換の標準として開発されました。MARCのレコード構造であるISO2709をXMLに置き換えることによりXMLで記述された完全なMARCレコードを表現することができます。
(2.2.2 XMLとは)
ここでXMLの説明をさせて頂きます。XMLとはWorld Wide
Web Consortiumという機関が1998年に仕様を策定したものです。
XMLの特徴としては3点挙げられます。
・XML1.0仕様はデータを記述するための文法であり、この文法に沿って記述されたデータをXML文書と呼びます。XML文書はテキストで記述されるので、基本的にどんなシステムでも読み込むことができるということ。
・XMLではタグを使ってデータを表現します。タグは入れ子にでき、名前も自由に設定できるうえ、タグで囲まれたデータにはどんな型や長さでも記述可能であること。
・XMLの仕様はオープンであり誰でも自由に無料で利用できること
(2.2.3 XMLが支持される理由)
では、なぜXMLが支持されるのでしょうか?それは、XML文書はテキスト形式だからです。テキスト形式ですので、人間にもデータの意味が分かりやすいし、タグ付けされているためにデータ構造の変更に柔軟で、アプリケーションの処理がしやすい。またデータが特定の環境に依存しないという利点が挙げられます。
(2.2.4 MARCXMLのまとめ)
佐藤康之氏は、“MARCXMLで直接書誌レコードが記述されることはないのではないか。MARCXMLはMARCに対してXMLの有効性をもたらすものであり、既に作成されたMARCレコードのXML版と位置づけることができる”としています
(2.3 MODS)
次はMODSです。MODSとは図書館での利用を重視し開発されたメタデータスキーマです。XML言語で記述可能で、MARC21から抽出された要素を表現することができます。MARC21と異なるのは各要素が数字タグではなく言語タグで表現するところです。MARCXMLによってISO2709の境界を越えたMARCレコードを、図書館のプラクティスを継承しながら、さらに容易なメタデータとするために開発されたXMLスキーマです。
(2.3.1 MODSとMARCXMLの比較)
MARCXMLではISO2709との完全な互換性を維持するためにMARCのタグやインディケータ、サブフィールドという内容識別指示子をそのまま残していました。このためにXMLスキーマであるもののMARCの分かりにくさを解消するには至っていません。一方MODSではレコード形式としてのMARCとの互換性に決別してMARCで表現される意味の継承に配慮した「言葉に基づくタグ」を採用し、一般的なXMLスキーマとの類似性を考慮し設計されています。
(2.3.2 MODSの利点)
MODSの利点は以下4点挙げられます。
@つめは、MARC21ほど複雑ではない為、簡単に素早くレコード作成が可能なこと
Aつめは、図書館重視のメタデータである一方、XMLで表現させることで従来のMARC以上に多方面での利用が期待できそうなメタデータであるということ
Bつめは、MODSはMARC21に準じており、MARC21との互換性が高いこと
Cつめは、MODSはMARC以外のメタデータスキーマにも対応できるように構成されていること。つまりシンプルダブリンコアのように階層を持たない形で表現することも可能であると同時に、MARC21のような複雑な構造をも表現することができるということです。
(2.4 MARCとメタデータの融合)
図書館が扱う資料やリソースの範囲をウェブ資源に広げるためには、メタデータと従来の目録の関わりを分析し、何がメタデータに求める要素なのかを把握することが重要です。またその際は、図書館関連団体の作成する各種メタデータとの互換性に配慮することも課題とされています。そんな中で、従来のMARCとメタデータを融合させるものとして、MARCXML、MODSが注目されていると私たちの分科会では理解しました。図書館は何を選択していくのでしょうか?すべてをMODSやMARCXMLなどのXMLスキーマに移行するのでしょうか?基本はこのままで、連携のためにXMLスキーマを使うのでしょうか?そこで、日本のほとんどの大学が利用しているNIIに今後の展望を伺ってみましたが、MODSについてはまだ調査、検討、評価が不十分であるので、具体的な採用計画はないとのことでした。
(3 FRBR)
では、続きまして新しい図書館目録やAACRなどの目録規則に大きな影響を与えているFRBRについて説明いたします。
参考資料:
書誌レコードの機能要件 : IFLA書誌レコード機能要件研究グループ最終報告(IFLA目録部会常任委員会承認) / 和中幹雄, 古川肇, 永田治樹訳 日本図書館協会 2004
FRBRとはなにか : その意義と課題 / 和中幹雄 「現代の図書館」Vol.42No.2
p115-123
T FRBRとは?
Functional Requirements
for Bibliographic Recordsの略。であり
「書誌レコードの機能要件」と訳されています。
その内容をひとことでいいますと、
データベースの設計などで用いられます、「実体関連分析」の手法を用い、利用者の観点から、書誌レコードが果たす諸機能を、明確に定義された用語によって記述し、目録の機能要件のモデル化を図ったもの。
となります。
すなわちFRBRは、ISBDのような書誌記述の国際標準や、日本目録規則などの「目録規則」、MARCなどの目録のデータモデルではありません。
FRBRは、書誌データの作成・管理・利用を支援する目録規則や目録システム(OPAC等)を評価するための指針あるいはガイドラインと考えることができます。
1992年に、I FLAの目録部会を中心に研究グループが発足、
1997年9月に最終報告書が発表されIFLA目録部会常任員会にて承認されています。
(3.1 目的)
最終報告書には目的として、
書誌レコードが果たす機能を、多様なメディア、種々の適用性、多様な利用者ニーズに関して、明確に定義した用語によって叙述することが挙げられています。
ここでいわれている書誌レコードとは、最も広い意味での書誌レコード、とされていまして、記述要素だけでなく、名称、タイトル、主題などのアクセスポイントや分類などの「組織化」要素、および解題を含む書誌レコードの全機能を対象にしています。
もう1点は、A全国書誌作成機関が作成する書誌レコードにとっての基本レベルの機能と基本的なデータ要件について勧告することとされています。
以上、2点がFRBRの目的とされています。
(3.2 FRBRの構成)
書誌レコードが果たす機能をモデル化しているFRBRですが、
FRBRにおいてモデル化しているのは、実体(entities)、属性(attributes)、関連(relationships)、利用者タスク(user tasks)の4点です。
実体はさらに、第1グループ、第2グループ、第3グループに大別されます。
(3.2.1 実体)
以下、FRBRモデルを紹介させていただきます。
利用者の関心対象を実体と呼びます。
FRBRでモデル化されている「実体」とは、利用者が目録あるいは書誌レコードを利用する際の、利用者の関心対象をモデル化したものです。実体、すなわち利用者の関心対象は、次の三つのカテゴリーに分けられます。
第1グループの実体は、
書誌レコードにおいて命名あるいは記述される知的・芸術的活動の成果をいいます。いわゆる著作物や資料自体のことで、さらに
@著作(work):個別の知的・芸術的創造
A表現形(expression):著作の知的・芸術的実現
B体現形(manifestation):著作の表現形の物理的具体化
C個別資料(item):体現形の単一の例示
の四つのカテゴリーに分けられます。のちほど例をみていただきます。
第2グループの実体は、
知的・芸術的成果に責任を持つ実体をいいます。具体的には、知的・芸術的内容、物理的製作と頒布あるいはこれらの成果の管理に責任をもつ個人または団体で、いわゆる著者、出版者、資料所蔵者等になります。
@個人(person) A団体(corporate body)
第3グループの実体は、
知的・芸術的成果の主題としての実体をいいます。著作の主題であり、これまで分類目録や件名目録の役割とされていた実体です。
@概念(concept) A物(object) B出来事(event) C場所(place)
以上のようにFRBRモデルでは、利用者の関心対象を「実体」として3つのグループに分けています。
今回の発表では、利用者指向の目録にかかわりが深い、実体の第1グループを中心に見ていきます。
(3.2.2 第1グループの実体と主要な関連)
第1グループの4つのカテゴリー、著作、表現形、体現形、個別資料は、カテゴリー同士で関係をもっています。FRBRモデルでは、「関連」と呼ばれています。
その関連は、著作は表現形を通して実現される、表現形は体現形の中で具体化される、体現形は個別資料によって例示される、とされています。
のちほど例をみていただきますが、「実体関連分析」の名のとおり、実体と関連によってFRBRモデルが構成されていることをみていただければと思います。
(3.2.3 属性)
次に、「属性」です。
各実体は、それぞれ「属性」(固有の属性と外的に付与される属性)をもっています。
すなわち、
著作の属性には、タイトル、形式、成立日付、想定終期、想定利用者などがあります。
表現形の属性には、タイトル、形式、成立日付、言語、特性、改訂性、数量など、
体現形の属性には、タイトル、責任表示、版・刷表示、出版地・頒布地、出版者・頒布者、出版日付、シリーズ表示、キャリアの形態、キャリアの数量、体現形識別子など、
個別資料の属性には、個別資料識別子、フィンガープリント、個別資料の出所、銘・献辞、アクセス制限などがあります。
あくまで、論理的属性とされておりまして、例えばISBNなどは、ここでは体現形識別子と表現されています。
(3.2.4 関連)
次に関連です。
第1グループの著作、表現形、体現形、個別資料の実体と関連の例になります。
和中幹雄氏の論文を参考にいたしました、源氏物語を例に見ていきます。
まず、著作1としまして、紫式部著 源氏物語があります。
先ほどの図(3.2.2)では、著作は表現形を通して実現される、となっていましたが、その表現形として、表現形1:大島本(写本)、表現形2:保坂本(写本)、表現形3:山岸徳平校注テキスト、表現形4:Arthur Waleyによる英訳、表現形5:幸田弘子朗読録音資料があげられています。
表現形3:山岸徳平校注テキストには、表現形は体現形の中で具体化される、とありましたが、体現形として、体現形1:日本古典文学大系(岩波書店刊)、体現形2:岩波文庫、体現形3:ワイド版岩波文庫があります。
紫式部の源氏物語とはことなる、関連著作としまして、関連著作1:谷崎潤一郎訳源氏物語などが挙げられています。
個別資料は省略いたしましたが、それぞれ体現形の下にA図書館の所蔵資料、B図書館の所蔵資料、あるいは本館の資料、分館の資料、本館の複本などがそれぞれぶらさがるイメージになります。
具体的に、何が著作でどこからがどこまでが表現形であるか、などはモデルが抽象的であるため、その実体の正確な境界線を定義することは困難とされています。
最終報告書では、いくつか例が示されています。
例えば、改訂、更新、縮刷版、増補版などは、同一著作の異なる表現形とされる、
抄録、ダイジェストおよび要約、書き直し、児童向け翻案などは新たな著作とされる、などです。
モデルを理解した、といえるところまで我々が達していないこともあり、わかりずらいとは思いますが、利用者志向目録という点から見ていただければ思います。
源氏物語の例でいいますと、1度の検索で、言語や件名のことなるものでも、関係する書誌情報をさがす事が可能である、という点に注目していただければと思います。同時に、版違い、翻訳の違いなど表現形、体現形の違いを容易にしることができます。
(3.2.5 利用者タスク)
FRBRでモデル化されている最後のものになりますが、利用者タスクを紹介します。
目録(書誌レコード)の利用者がどのような行動をしているかをモデル化したものです。
さまざまな利用者がさまざまな利用目的をもって書誌を利用しますが、その際の利用者の行動は、次の4点に類型化される、とされています。
すなわち、
実体の発見、実体の識別、実体の選択、実体の入手の4つです。
以上の4つに類型化した上で、利用者が実体を探索する場合の手段となる、属性や関連の個々について、その重要度を評価しています。
たとえば、「著作のタイトル」属性は、実体の発見には重要であるが、実体の入手にはそれほど重要ではない。
体現形の「版・刷表示」属性は、識別、選択には重要であるが発見には重要ではない。
個別資料の「アクセス制限」属性は、入手には重要だが、発見、識別、選択には重要ではない。
などです。
(3.3 OCLCにおけるFRBRに関するプロジェクト(1))
次にFRBRに関するOCLCのプロジェクトを紹介したいと思います。
OCLCのWorldCatをFRBRの実体の第1グループでモデル化を計ったさいにどのような実体の割合になるかをしめすものです。
WorlCat(OCLC)の書誌レコード約5,000万件(図書85%、逐次刊行物5%、楽譜・録音資料4%、映像資料3%、地図2%、その他1%)から1,000件をサンプル抽出して聖書など実験に適さない4件を除いて分析した結果です。
WorldCat、46,767,913(約4,700万件)のうち独立した著作は約3,200万件と推定されました。
1著作につき平均1.5体現形になります。
3,200万件のうち、2,500万件(78%)の著作は、1体現形で具体化されています。
99%の著作は、7体現形以下で表現されており、
1%(3万件)の著作は、20以上の体現形で具体化されている。
との結果がでました。
さきほどは源氏物語の例をみていただきましたが、約3/4の資料に関しては1つの著作に対して1つの体現形しかありません。さきほどの例のような関連が描かれる資料は全体からみると非常に少ないことがみてとれます。
(3.3.1 OCLCにおけるFRBRに関するプロジェクト(2))
次の関連プロジェクトは、xISBNです。
1件のISBNを入力すると関連するすべての実体のリストを返すサービスです。
版違いは翻訳の有無などがわかることにより、代替可能な資料を簡便に探すことができ
るとされています。
先ほどの源氏物語の例でいいますと、岩波文庫版のISBNを入力すると関連するすべてのISBNがわかります。それによって、岩波文庫版は未所蔵だが、古典文学大系は利用可能である、などを知ることができます。
利用者のみならず、図書館の側でも例えば寄贈の受入を判断するさいや、ILLなどの場面での応用が期待されています。
以上で、FRBRの説明を終わります。
(4. アメリカにおける先駆的な取り組み Red Light Green)
Red Light Greenについて
アメリカで行われている先駆的な利用者志向の目録の取り組みとして挙げられるのがRed Light Greenです。Red Light Greenは約1億4000万件のレコードを持つWeb目録で、RLGUnionカタログを基に作られています。URLにアクセスすれば、自由に利用することができます。このRed Light GreenはRLG(Research Libraries Group)が運営しています。
(4.1 RLG(Research Libraries Group)とは)
Research Libraries
Groupとは150を超える図書館、文書館、博物館、美術館、そして文化財保管施設からなる非営利組織で、各館で所蔵する研究資料へアクセスしやすくし、研究者、学習者を支援する活動をしています。本部は、カリフォルニアのマウンテンビュー地区にあります。設立は1974年で、ニューヨーク公立図書館、コロンビア、ハーバード、エール大学によります。このResearch Libraries Groupが目指すものはインターネットを使った研究資料の収集、提供で、その1つにRed Light Greenがあげられます。
それでは、Red Light Greenのサービスを実際の画面を通じてご説明します。
(01)これが、Red Light Greenの検索画面です。グーグルスタイルで、一箇所の検索語入力欄に好きな単語を入れて検索ができます。ここでは、シェイクスピアの"king lear"を検索します。
(検索語欄にking learと入力して検索開始)(02)
(03)こちらが検索結果の表示です。検索結果は入力した検索語からはじきだした重要度の高い順に最大で500件まで表示されます。重要度は五段階でバーによって表示されます。また、各データを見るとそれぞれにエディション数が表示されていることがわかります。一番目のデータでは874エディションと表示されています。これがどういうことか説明します。king learというデータ1つのくくりの中に874個の異なる版が含まれているということです。先ほどの説明で出てきました、FRBRの手法がここで生かされていることになります。つまり”king lear"という著作の中に874個の体言形があることになります。Red Light Greenでは各データは、著作と体言形にまとめられています。表現形は使用されていません。"king lear"のような例ではたくさんの体言形があり、それらをまとめることで目録が大変シンプルで見やすくなることがわかると思います。ここで、King Learを選んでみます。(04)すると1著作の詳細データが出てきます。詳細表示には、簡易表示と完全詳細表示があります。こちらのボタンでそれを変えることが出来ます。Get it at your libraryでは、サインインして自分の登録している図書館の蔵書検索システムにダイレクトに飛ぶことが出来るようになっています。また、your listでは、自分が登録したデータの一覧を見ることが出来るようになっています。
(4.2 検索結果)
(画面を戻る)一つ画面を戻りまして、左側のRefine Search Byでは、Subjects、Authors、Languagesで、データを絞ることが出来ます。例えば、Authorsで絞ると一つ目のShakespeare,Williamの場合、著者としてシェイクスピアが登録されている著作のみが絞り出されることになります。(実際にクリックしてみせる)(05)このようになります。LanguagesでRefine Searchを行うと、その言語で書かれている体現形が含まれている著作が抽出されます。つまり、King Learの例で言えば、874エディションあるうちにリファインサーチで選んだ言語が含まれていれば、その体言形が抽出されるということになります。例えば、日本語を選んだ場合を実際に行って見ましょう。(06)(実際に日本語でリファインサーチを行う)このように結果が出てきますが、これは、日本語が各著作の中に含まれる体現形にあるものが、この3点のみであるということを示しています。Subjectでリファインサーチを行うと、選んだ件名が登録されている著作のみが検索結果として出てきます。related Subjectsでは、その著作のサブジェクトの中で主要なものが表示されます。このリンクをたどることで、自分が求める資料を様々な角度から探すことが出来ることがわかります。例えば、English dramaや、tragediesで他の主要なその主題の作品を知ることが出来ます。Red Light Greenで使われているSubjectはLCSHを基本とした構成になっています。
(04)それから、この著作に関してさらにもっと知りたい場合は、下のほうにある、グーグルへのリンクや、オンラインブックスへのリンクが便利です。グーグルへのリンクは、(クリックする)自動的に必要な単語が単語入力欄に入力されて検索されます。オンラインブックスでは、20000を超える無料のインターネットブックのデータを調べることが出来ます。
Red Light Greenでは目録をMARCで取っており今のところMODSなどの新たな記述方法を使用する予定はないということでした。
このように、Red Light Greenは無数のデータから自分の必要なデータを効率よく選び出すことができ、資料によっては、無料でインターネット上の資料を閲覧する手段を提供している点で、優れているということが出来ます。
(5. 未来の利用者志向目録)
これまで利用者志向目録を記述方法、利用者への見せ方(インターフェイス)の二つの視点から紹介してきました。ここで、最後に私たちが考える未来の利用者志向目録のあり方のまとめと、現在の日本の動向について触れたいと思います。
未来の目録はどのような形式で記述されることになるのでしょうか?図書館の目録の収録範囲にネットワークリソースを加え、利用者が使いやすい目録とするためには、これまでMARC中心であった記述形式をMODSやMARCXMLにするのか、もしくは自らの記述形式はMARCを採用しながらも、MODSやMARCXMLを手段として用いることで、メタデータとの互換性を図るという二つの選択肢があるのではないかと私たちは考えます。
次に、利用者への見せ方(インターフェイス)についてですが、今回の発表で先駆的な利用者志向目録としてとりあげたRedrightgreenのように、システムの裏の仕組みにFRBRを利用すれば、利用者が、入手したいと思っている資料を検索するのに容易に到達しやすくなりますし、資料の全体(著作)から個(体現形)への関連付けや、著作同士の関連付けも可能となるでしょう。
ただ、Redrightgreenは目録の記述形式にMARCを採用しており、収録範囲も雑誌やネットワークリソースは対象となっていません。今後雑誌やネットワークリソースが加わり、さらに利用者志向のインターフェイスとなることを期待したいと思います。
最後に日本における利用者志向目録の取り組みについて述べたいと思います。日本における目録動向については、学術情報の流通のために先端的な基盤の開発と整備を行っているNII(国立情報学研究所)が中心となっているのは言うまでもありません。発表の冒頭で紹介したように、NIIでは本年4月1日から、GeNii:NII学術コンテンツ・ポータルのサービスを開始し、CiNii,(論文情報ナビゲータ) Webcat Plus(図書、雑誌検索)科学研究費成果公開サービス、学術研究データベース・リポジトリを統合的に検索できるようになりました。
また、目録所在情報データベースであるWebcat Plusは、図書の検索においてキーワード入力による連想検索が可能となり、関心のあるテーマと関連のある図書を効率的に見つけることができるようになっています。Webcat Plusは、RedrightgreenのようにFRBRを活用したインターフェイスではなく、独自の連想検索システムを用いて利用者志向のインターフェイスを構築しています。NIIによると、インターフェイスにFRBR的な手法を取り入れるかどうかにいては、将来検討する可能性もあり得るということでした。
また大学が発信しているウェブ情報資源のメタデータデータベースであるJuNiiは現在試験提供中ですが、NIIによれば本格運用に向けて他のデータベースとの横断検索ができるように、開発を進めているとのことでした。JuNiiが本格運用され、GeNiiでの横断検索が可能となれば、図書、雑誌、論文、ウェブ情報資源、科学研究費成果を全て一度に検索できることとなり、総合学術情報ポータルとして大きな役割を果たすこととなるでしょう。
これまでのNACSIS-CAT
への書誌、所蔵の登録に加えて、JuNiiに大学からの発信情報を一つ一つ登録していくなど、現在個々の大学でできることはまだ限られています。しかし、NII主導の下、利用者が求める情報により容易に到達できるようにするために、私たち一人一人の図書館員も最新の動向に注目していきたいと思います。
最後に、突然の質問に丁寧に応えてくださった国立情報学研究所コンテンツ課の方々に心から感謝申し上げます。
以上で資料組織研究分科会の発表を終わります。
ありがとうございました。