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2004年1月6日

私立大学図書館協会海外集合研修報告書


私立大学図書館協会
国際図書館協力委員会
 委員長 村山 重治 様

                                       古庄 敬文 西南学院大学図書館
                                       濱田 一枝 桜美林大学図書館
                                       八田 京子 日本大学商学部図書館
                                       伊藤 朋子 明治大学図書館
                                       中島 晴子 同志社大学総合情報センター
                                       坂下 景子 法政大学図書館
                                       高井  響 立命館大学総合情報センター
                                       高杉 幸史 中央大学図書館

 標記研修を実施しましたので、以下のとおりご報告いたします。

1. 研修日程
 日程:2003年10月26日(日)〜11月1日(土) 5泊7日
 宿泊先:San Francisco Hilton & Towers
 訪問先:UC Berkeley, Research Libraries Group, Stanford University, UC California Digital Library

2. 研修概要
 2003年度国際図書館協力シンポジウムテーマ「大学図書館における学術情報流通基盤の整備と充実」に基づき、アメリカ・カリフォル
 ニア州の先駆的活動をしている図書館・機関を見学し、研修する。

3. スケジュール
 10/27(月) UC Berkeley  10:00 〜 12:00
  10:00 - 11:00 Meeting & Discussion in Doe Library Room 245 and Tour of the Doe/Moffit Libraries
  11:00 - 12:00 Tour of the Law Library at Boalt Hall
 10/28(火) Research Libraries Group  9:30 〜 14:30
   9:30 - 10:00 Welcome & refreshments
  10:00 - Noon RLG overview: mission, membership, programs & services
         Including RLG’s resource sharing program (SHARES)
         program objectives peer-to-peer tool: ILL Manage
   Noon - 13:00 Catered lunch and informal discussion
  13:00 - 14:30 RLG’s online resources
         digital library program: RLG Cultural Materials
         archival resources program: RLG Archival Resources
         student access to library resources: RedLightGreen
 10/29(水) Stanford University  13:00 〜 17:45
  13:00 - 14:00 Discuss user services in a global networked environment,
         various online services, and document delivery services
  14:00 - 15:00 Discuss digital library services, digitization of resources, and E-journals
  15:00 - 16:00 Discuss resource sharing, digital resources, consortium, and library cooperation in a networked
         globalized environment at East Asia Library
  16:15 - 17:00 LOCKSS
  17:00 - 17:45 Tour of the Robert Crown Law Library
 10/30(木) UC California Digital Library  9:00 〜 15:15
   9:15 - 10:00 Welcome & Overview with a Light Breakfast
  10:00 - 10:45 eScholarship Repository, eScholarship Editions, UCIAS
  11:00 - 11:45 eResource Lifecycle Management, Image Demonstrator Project
  11:45 - 12:15 Lunch Question and Answer Discussion
  12:15 - 13:00 Requests VDX Project
  13:00 - 14:00 Web Capture Projects
         Shared Licensed Collections
         Resource Liaisons
  14:00 - 14:45 OAC Contextual Information
         Tools for Contributing Memebers
         Use of METS
         TEI Texts
  14:45 - 15:15 Questions/Answers

4. 準備から出発まで
 10月3日の初顔合わせまでに参加者から出された質問事項に加え、参考文献を読んだり、訪問校のホームページを見て、その後に考えた質問を取りまとめた。質問事項は@電子資料、A利用指導、B図書館政策等に分類し、訪問校に事前に質問を送った。今回は関東、関西、九州と参加者が離れていたため、連絡は主にメールを利用した。また、関東からの参加者で一度集まり、訪問先での質問担当者、質問事項の英訳担当者、その他経費のこと、連絡手段、録音機材、服装、手土産のことなどの事前打ち合わせを行なった。
 出発までにほとんどのスケジュールは確定していたが、一部未確定の部分があったため、到着後メールで訪問先に連絡を取ることとした。

5.研修1日目 10月27日(月)  University of California Berkeley(以下「UCB」)

(1) Doe / Moffitt Library
 UCBには、Doe / Moffitt Library、Bancroft Libraryと、20を超える主題専門図書館があり、それぞれが密接につながっている。Doe / Moffitt Libraryは、全ての専門図書館を結び付ける機能を果たしている。人文科学・社会科学分野の蔵書を構築し、学部学生を中心にサービスを行っている。
 日本の多くの大学図書館と同じく、UCB Libraryでも財政は逼迫しており、資料の電子化によってその問題を克服している。UCBでは、利用者も電子媒体の資料を好んで利用する傾向があり、図書館の政策と利用者のニーズがうまく一致している。
 UCBで購読しているe-journalのタイトル数はカウントされていないが、e-bookのタイトル数は、903タイトルで、うち96%にあたる867タイトルに、10871回、利用者からアクセスされている。e-bookは電子的に1人の利用者に貸し出す仕組みになっているので、他の利用者が貸し出し中のために、191タイトル、1918回はアクセスできなかった、という統計も出ている。
 資料の電子化が進むと、図書館来館利用者が減少することが懸念されるが、UCBでは前提として、オンライン利用者が増えていることを肯定的に捉えている。そして、オンライン利用者が確実に増加すると同時に、図書館に来館する利用者も増加している実態がある。サーキュレーションは減っているが、個人学習や、グループで学習の「場」として、図書館を活用する学生が増えている。図書館カウンターで貸し出ししているワイヤレスカードとソフトウェアをインストールし、個人のlaptopでキャンパスネットワークに接続できる無線LANサービスも提供しており、電子機能と図書館とを結び付けている。
 また、図書館は、データベースの使い方等を教育する「場」としての機能も果たしている。データベースの使い方や資料の探し方について、対象者別、分野別に各種のガイダンス(Workshop)を各図書館内でのみ実施している。クラス単位でWorkshopを開くだけでなく、個別申込制で、レファレンススタッフと学部学生との1対1で60分間、資料の探し方について方策を教えるサービスも行っている。
 レファレンスは20〜30人の体制で調査・回答を行っている。UCBではe-mailレファレンスも幅広く受け付けており、e-mailレファレンスを中心に回答するスタッフもいる。
e-mailレファレンス件数はカウントできない程の数にのぼり、レファレンスにおいても電子化が進んでいると言える。しかし、学生の電子資料の検索スキルは十分ではなく、Google等の検索エンジン以外の、信頼性の高い情報源の探し方について教育する必要がある。

(2) Law Library
 専門図書館の一つであるLaw Libraryは、Boalt School of Lawに併設されており、法律関係の資料を中心に所蔵している。Law Libraryの蔵書検索ができる「LAWCAT」、ならびに、Lexis-NexisとWestlawを使える環境を整えている。学生はLexis-Nexisで関連する新聞を読む等、データベースの利用が浸透している。データベースを使うためにはIDとPasswordが必要で、Law Libraryでは、専用のID・Passwordを取得するために、Library Feeを徴収している。
 データベースの利用方法については、Law Library内の教室でWorkshopが開かれており、講師はベンダー、もしくはライブラリアンが担当している。
Law Libraryでは、学生にデータベースの利用が普及している一方で、紙媒体の資料やマイクロフィッシュ・マイクロフィルムの利用が減っている実態が問題視されている。
 なお、Law LibraryのホームページにはExamという項目があり、それをクリックすると、主題毎、教員別、学期の3項目からこれまでに行なわれた試験問題を検索でき、またその中身も見ることができるようになっていることから、図書館と授業が密接に結びついていることが分かる。

6.研修2日目 10月28日(火)Research Libraries Group

 RLGは1974年に創設された非営利団体で、16カ国160機関が会員となっている。大学図書館が約半数、公文書館・博物館が各2割強、そのほか国会図書館や歴史協会など、参加機関の多様さがRLGの広範囲な活動を特色づけている。現在、日本の会員は慶応義塾大学1校のみだが、英国では複数機関がコンソーシアムを組んでの参加という形を取っている。
 学術的研究の支援がRLGの活動の中心である。その最重要プログラムのひとつがSHARES (SHAred REScources)である。90機関が参加するInternational SHARES Partnershipでは、小規模な図書館への無料貸出、図書館相互の無料貸借もおこなわれている。会員間でワーキンググループを作り、eメールでの連絡やミーティング開催などが活発に展開されている。こうした会員機関との相互協力によって、それぞれの抱える問題の解決策が提供されている。
 RLGのスタッフは90名、その三分の一を占める技術系スタッフが、リソース・シェアリングを円滑にするための様々な開発を手がけている。ILL managerと呼ばれるプログラムは、異なるインターフェイス間の直接接続を可能にした。Ariel(インターネットを利用した文献複写ソフトウェア)は、資料のスキャニングからデリバリーまでを一貫しておこなう。同様の文献提供サービスにドイツのSUBITOなども挙げられるが、日本では著作権の問題もあり難しいところである。
 また、文化的資料保存の分野にも力を入れている。100以上の参加美術館・博物館の所蔵する絵画・写真・手稿などをデジタル化し、RLG Cultural Materialsというデータベースとして提供している。全巻デジタル化されたという「カンタベリー物語」の古写本やスコットランド女王メアリの最後の手紙など、多彩な例を紹介していただくことができた。このデータベースの面白いところは、その資料の特殊性から検索がWhat(type of works)、Where(placeswhere works were created)、Who(all people/groups)で検索できるところである。
 RLGは多言語開発の面でも知られる。データベースとして最大級の規模を誇るOCLC (Online Computer Library Center)でも対応できない資料を、RLGがサポートすることも少なくない。CJK (Chinese, Japanese, Korean)言語資料に関しては、過去20年で3000万タイトルの蓄積がある。このほか、アラビア・ヘブライ・キリル系言語の資料をも数多く有する。
 誰が多言語の目録作成に当たるのか質問したが、予想していた通りアウトソーシングに頼ることが多いという。後日訪問したStanford UniversityのEast Asia Libraryでも同じ質問をした。人件費節減の意味からも留学生に委託することが多いが、後で図書館員がデータを洗い直さねばならない、という答えが返ってきた。図書館員が必ずしも特殊言語に精通しているとは限らない。ネイティヴ・スピーカーに目録作成を委託しても、そのままではデータとしての基準を満たすものとはなりえない。彼らが目録規則に明るいとは、必ずしも期待できないからである。図書館業務のアウトソーシングは進む方向にあるが、データの品質管理面で課題が残るのはいずこも同じである。
 最新のプロジェクトとしては、2002年3月に開始されたRedLightGreen (前身: RLG Union Catalog)が挙げられる。Googleのような手軽なサーチエンジンとして、学部生を対象に作られた。「版にはこだわらないが、この作品が読みたい」という日常的な要求に応えるため、図書館用語ではなく、より平易な主題(title clustersと呼ばれている)をキーワードにした検索が可能となっている。

  7.研修第3日目 10月29日(水) Stanford University

 午後1時にLobby of the Bing Wing of Cecil GreenにてMs. Kathryn Kerns出迎えを受け、その後図書館見学を行なった。事前に撮影許可を求めたが、プライバシーの問題から公の撮影は許可されなかった。その後、Ms.Kernsから利用者指導に関することを中心に説明を受けた。まず、ホームページの紹介があり、初心者に対してのdatabaseの利用方法について説明があった。Stanfordでは、SKILというサイトがあり、図書館で必要な知識を得ることができるようになっている。これは、クイズ形式で内容を深めていき次のステップへと進むようになっている。これは6段階になっており、それが終わるとCourse Workに進むようになっている。データベースについては、Iのマークがついているものはその利用方法がついているとの説明があった。また、レファレンスで分からないことがあれば、E-Mailで尋ねることができるようになっており、それ以外の苦情、コメント、図書購入については、SUL/AIR Formsで送信できるようになっている。
 ILLについては申込みも多いが、実際60%は所蔵しているとのことであった。ILLについてのデリバリー方法について質問したが、フォトコピーであれば、添付メールで届けられるとのことであった。また、料金はno chargeになっていた。なお、RLCP(Research Library Cooperative Program)により、Berkeley, Austin, Stanford間では相互協力関係を結んでおり、ダイレクトの申込みもデリバリーもできるようになっていた。
 次にMr. Paul Zarinsからは、訪問前に予め送っていた質問に対しての回答があった。
(1)電子ジャーナルについて値上がりが激しいが、図書館予算は増えていない。そのため冊子体の購読を中止しなければならない。このような問題をどのように解決しているか。
予算は解決できない問題である。Publisherとの交渉はしている。Resource sharing、E-journalなどはコンソーシアムするなどの工夫をしている。例えば、Yale, Harvard, Prinston etcなどはNorth East Research Libraryであるが特別に加わって、コンソーシアムを形成している。
(2)どれぐらいのe-booksとe-journalsを持っているか。
   E-journalの冊数は具体的には挙げられなかった。
(3)e-bookをどこから購入しているか。
   業者はそれぞれの専門によって異なり、特定の業者から購入しているわけではない。
Net Libraryとの場合もあるし、そうでない場合もある。
(4)e-journalはデータベースの内容がいろいろと変わり、以前に含まれていた雑誌が今は含まれていないというようなことが起こるが、どのような対応をしているか。
常に一番新しいものに書きかえられている。その管理はTDNETに委託し、メンテナンスもしてもらっている。
(5)電子資料の利用は増えていると思うか。また、そのことは図書館にとって好ましい傾向だと思うか。
電子資料の利用は増えていると思う。フルテキストをPCで見ている人もいるが、全体として目的は色々で多様化したプリントを出すことにはお金が必要だし、E-journalのコピーもあるが、カード利用ができるようになったので以前より利用は増えた。また、利用者はこの傾向については好ましい傾向であると思っているだろう。
(6)Ask Librarian(図書館への質問)の利用状況はどれぐらいか。
   一週間に約50件。
(7)Search Engineはどのようなものを利用しているか。
  Google,Yahooなどの検索エンジンを良く使っている。
(8)遠隔地からの大学図書館サーバーへのアクセスはどのようにしているか。
   遠隔サーバーはプロシキサーバーを使っており、IDとパスワードで管理している。
(9)新しいインフォメーションをどのように伝えているか。
   ホームページ、ワークショップ、チラシ等を利用している。
(10)選書はどのような人が行なっているか。また、冊子体からe-resources等に媒体を変えることには抵抗があると思うが、どのように対処しているか。
選書についてはそれぞれのスペシャリストがいて、その人たちがしている。e-resourcesは年をとった人で苦手な人もいるようだが、図書館がイニシアチブをとって冊子体からe-resourcesに変えることについては半ば強引に進めている。

 次にEast Asia Libraryを見学し、その後、Ms. KotakeからEast Asia LibraryにおけるILLの現状について話を聞いた。
 現在GIF(Global ILL Framework)に参加していないため、海外への複写・貸借依頼は少ないが、参加すれば利用者がもっと増えるのではないかということだった。今のところ、早稲田大学からILLで必要なものは借りているとのことであった。また、日本のコレクションについて、例えば、新聞はそれぞれ収集担当の図書館を決めてリソースシェアリングを図っているとのことであった。
   朝日新聞----Stanford
日本経済新聞----UC Berkeley
産経新聞-----UC San Diego
読売新聞-----Santa Barbara
NCC(全米日本図書資料調整委員会)からは1992年より無料の貸出し援助が出ているそうである。また、日本から文献複写を申し込む場合、国立大学図書館協議会(ANUL)には無料で提供しているとのことであった。
 コレクションについては、中国書はYearbookなどを所蔵している。 台湾の歴史関係については4000タイトル、新聞は1948年よりフルテキスト縮刷版で所蔵している。また、Electronic resourcesについては、UC San DiegoやSanta Barbara校などとコンソーシアムを組んで、Chinese Digital Collectionを作っている。また、「Superstar」というデータベースの中には、7,000タイトルのChinese Journalsが含まれている。Chinese CDについては、Traditional materialsとして、1984年以降のNewspaperを購入している。
 日本のコレクションについて、レファレンスは1対1で予約を取ってもらう形で行っている。使っているデータベースはNichigai Web,Nacsis IRを使っているがすべて日本語で表示される。修士は少なく博士クラスなので日本語のわかる人が殆どで、小竹さんが側で教える形をとっている。日経テレコンなど本当は契約を希望しているが、その契約が難しく、もし裁判があると日本まで行くことになり、契約違反があれば即停止になってしまう、という厳しい状況下にあるため契約できないでいるそうである。
 新聞見出しは1945〜95年のCD-ROMは購入してあるが、英語版で対応しないため購入中止となった。XPは対応しているがStanfordでは奨励していない。読売については購入したが、ハードディスクに入れることが、許可されていない。しかし、あまりCD-ROMの購入希望はしていないということである。LANにのせて利用させるなどということは人手不足のため現在はしていないそうである。

16:15-17:15 Ms.Victoria Reich担当
 “LOCKSS”について
LOCKSSについては、非常に専門的な技術のことだったので、話を聞いているだけではなかなか理解することが困難であった。これについては、Ms. Victoria Reichの論文があるが、話の内容はその論文に沿ったものであった。LOCKSSとはLots of Copies Keep Stuff Safeの頭文字をとったもので、「多くのコピーが資料を安全に保つ」という意味である。簡単に言うと、一つの文献をいくつかの図書館が保存することで、万が一の事故があってもどこかがその資料を保存し続けることができるように、オンラインコンテンツもWeb上にキャッシュという形でいくつかのレポジトリに分散してそれらのコンテンツが消えないように保存させるといったものである。それを達成するためのソフトウェアがLOCKSSである。これは無料で、しかも安価なハードウェア上で稼動するものである。Web上の情報はいつの間にか消え去ってどこに行ったか分からないということが起きるが、これらを防ぐために非常に有効な手段である。(この報告については、久保順子さんの「コンテンツ流通基盤技術論」(Ms. Victoria Reichの論文の翻訳)を参考にした。)

17:15-17:45 Law Library見学
 Mr. J.Paul Lomioに館内案内をしてもらった。
 データベースはLexis-NexisとWestlaw両方が入っており、それぞれ専用のプリンター、専用の紙が備付けてあった。そのため、学生はこれらのデータベースの打ち出しは無制限に打ち出せるようになっていた。これらはすべてベンダーが提供しているとのことであった。また、Lexis-Nexisは分からないことがある場合は、ホットラインが用意してあり、いつでも尋ねることができるようになっていた。
 閲覧席の一部にはReserved seatがあり、指定の用紙に記入したものが席にはりつけてあり、座席の確保が許されている。入退館システムは大変シンプルであり、カードを読み取りの機械に近づけるだけで、ゲートが反応する仕組みになっている。わざわざカードそのものを取り出す必要はなく、手が塞がっていても入館可能である。この図書館ではやはりデータベースを利用しての勉強が主流となっており、Lomio氏はいい資料が揃っているが、現実はあまり利用されていないと言われていた。

8.研修第4日目 UC California Digital Library

 The University of California LibrariesはBerkeley校を始めとした9つのリサーチキャンパスから構成されている。The University of California Digital Libraries(以下CDL)はUC全体の電子サービスに関するライセンス契約を扱っており、8,000タイトルの電子ジャーナル、250のデータベース、7,000の検索ツールなどを扱っている。また、9つのキャンパス共通のOnline Union of Catalogueを作成し、提供している。
 CDLは以下2つの目的で機能しており、第一の目的はUC内の各キャンパス間の蔵書・資料の共有化の促進である。文献依頼を例にあげると、従来通り現物貸借も行っているが、電子形態の資料をそのままスキャン(コピー)して、デスクトップからデスクトップへ電子的に送信を行うケースも多く、電子資料の共有化を推進している。なお、送信されたデータへのアクセスについては、利用者に電子資料へのアクセス先を教え、直接利用者が指定された場所へアクセスし必要な資料をダウンロードするという方法をとっている。
 第二の目的は、デジタル資料へのアクセスを発展させ、管理することであり、CDLでは利用者がどのような情報源を求めているかを調査すると共に、どのように情報を統合し、どのような形態で利用者へ提供するかについて研究している。
 CDLが取り組んでいるプロジェクトについていくつか紹介すると、まずeScholarships Repositoryという機関リポジトリのプログラムがあげられる。これは、カリフォルニア大学の価値のある研究成果を蓄積するための電子保存書庫で、出版されているものはもちろんのこと、出版前の資料や審査論文も含んでいる。このリポジトリでは、ワーキングペーパー、テクニカルレポート、注釈つきのデータセットなどの研究結果や学術成果をデジタル資料としてデポジットするための場所が提供されている。このプロジェクトには参加することも自由で、またこれらの資料を使用することも自由になっている。なお、著作権は著者が持っている。ここには2,300以上の論文がデポジットされ、一週間で約8,000以上のダウンロードが行なわれており、そのほとんどがカリフォルニア州外からのアクセスである。約100以上のカリフォルニア大学の機関、学部、研究ユニットが参加している。その参加状況からも学術コミュニティにおける機関リポジトリの重要性が認識でき、かつリポジトリが学術出版と研究活動をつなげる中核的な役割を果たしているといってよいだろう。このプログラムを通して、リポジトリをより多くの研究者が教育・研究の両面に役立つ資源として認識するようになり、さらには、カリフォルニア大学の研究がこれまで以上に注目されるようになった。
 今一つの重要なプログラムにOnline Archive of California(OAC)があげられる。これは大学図書館、博物館、公文書館など75の機関が参加機関独自のデジタル・コレクションを持ち寄り、OACとして様々な分野を抱えたひとつのアーカイブを作成しているものである。つまり、多種多彩なデジタルコレクションへのアクセスを可能にしたユニオンカタログである。基本文書(manuscripts,papers,pictures,etcをさす)はEADで符号化され、ImageとTextはMETSによって符号化され、基本文書にリンクされている。基本文書は7,400件、デジタルオブジェクトは12万のイメージと2万5千ページのテキストがある。
このOACのおかげで、これまで直接来館しなければ、利用することができなかったコレクションをこのデータベースを活用することで、デジタルコテンツの検索・閲覧をすることができるようになったといえるだろう。

9.2003年度海外集合研修を終えて

 今回の派遣メンバーは図書館の各部門で現場業務に従事する担当者で構成されていたことから、先方の担当者とも実際的な質問のやり取りができたと思う。
 10月3日の事前説明会での提示資料である各自の訪問先への質問事項を基礎に、それ以降も訪問先の組織のホームページを通して情報収集や調査を続け、メンバーの関心分野に基づいて、各機関に質問を事前に送信することとした。各機関の担当者とも、訪問時には、好意的に回答していただき、有益な意見交換ができたと思う。
 アメリカの図書館や各機関の訪問を通して、各種の電子的情報サービスの展開、ドキュメントデリバリサービス(DDS)、リモートユーザーのサービスへの対処など、感心させられる部分が大いにあった。それも図書館職員の削減や予算の伸び悩みといった危機にありながらも、図書館が果たすべき役割は何かを常に意識し、守りにまわらず、新たなサービスを打ち出し続けてきているという彼らの積極進取の発想と精神には感心させられた。そこで活躍する図書館員の柔軟な企画力と、理想を実現しようとする行動力には見習わなければならない、参考になる部分が多分にあった。ミハルコ氏の講演にあったように、資料のオンライン化は確実に進み、資料の利用方法も変化してきているが、その流れを図書館として、いかに捉えていくかWorkshop等をみると確実に対応を行なってきていることが分かった。
 アメリカの先駆的活動をしている図書館・専門機関の視察、研修は参加メンバーにとって、大変貴重な経験となった。海外集合研修を企画、アレンジしていただいた国際協力委員会の皆様に、研修参加メンバー一同、深く感謝の意を表したいと思う。

 

以  上