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2005年2月21日

私立大学図書館協会

国際図書館協力委員会

委員長 村山 重治 様

              国際基督教大学図書館 宮本 智佳子

明治学院大学図書館 宮本 美帆子

上智大学図書館 杉本 昌彦

 

2004年度海外集合研修報告書

 

2004年度海外集合研修において、10月24日(日)から31日(日)の日程で、イリノイ大学モーテンソンセンターの研修プログラムに参加いたしましたので下記のとおりご報告いたします。

 

 

1. 研修概要

■テーマ   「アメリカの大学図書館の現状を知る」

■研修先                イリノイ大学モーテンソンセンター (Mortenson Center for International Library Programs, University of Illinois Library at Urbana-Champaign

研修日程概略

200410241031

10月24日(日)        成田空港から渡米

10月25日(月)        イリノイ大学モーテンソンセンターにて、イリノイ大学図書館員による講義、図書館見学

1026        イリノイ・ウェズリアン大学図書館見学、パークランド・カレッジ図書館見学

10月27日(水)        イリノイ州立図書館見学、リンカーン記念図書館見学

10月28日(木)        イリノイ大学グレインジャー図書館(理工系の図書館)にて電子化、データベースサービスポータルの実際を見学、メディアセンター、ローライブラリーなどを見学

10月29日(金)        シカゴにて自主研修

10月30日(土)        シカゴオヘア空港から離米

10月31日(日)        帰国

 

1.1 イリノイ大学モーテンソンセンター研修プログラムについて

モーテンソンセンター(http://www.library.uiuc.edu/mortenson/)は、イリノイ大学Urbana-Champaign 校の図書館内にあり、世界各国の図書館専門職を対象として、参加者の自国の図書館や図書館員の発展に寄与することを目的に、イリノイ大学図書館を中心とした最先端の学術図書館の体験を含む、いくつかのプログラムを提供している。

毎年、8週間のAssociate Programを開催しているが、今回の研修のために特別に4日間のプログラムが用意された。

10月1日の事前説明会での参加者3名の初顔合わせを経て、出発までの約3週間で参加者の関心のある事項を質問としてまとめ、事前にモーテソンセンターに送付した。研修プログラムは、それらをもとに、モーテンソンセンターで作成された。

 

■モーテンソンセンター研修プログラム

10/25(月)

Management of libraries from University of Illinois perspective

900        Lynn Wiley; Head Information Service Delivery and Entrepreneurial Program

1015       Karen Schmidt; Associate University Librarian for Collections, Lisa German; Head  Acquisitions

1315       Kathleen Kern; Assistant Reference Librarian

1500       Library Tour (Setsuko Noguchi)

   Rare Book & Special Collections Library / Asian Library / Womens study Library / Government Document Center / Reference Desk

1600       Meeting with Paula Kaufman; University Librarian

10/26(火)

830        Pick up to Leave for Illinois Wesleyan University (Chong-Hwey Fee)

1030       Illinois Wesleyan University in Bloomington (Sue Stroyan)

1430       Parkland College in Champaign (Anna Maria Watkin)

10/27(水)

800        Pick up to Leave for Illinois State Library (Barbara J. Ford)

1000-1600            Program at Illinois State Library in Springfield (Bonnie Matheis)

10/28(木)

830        Pick up at Hotel (Jaclyn Bedoya)

900        Grainger Engineering Library Information Center Amy Maroso; Project Coordinator ,Digitisation, William Mischo; Head Librarian

1130       Media and Reserve Center

13:00        Rare Book & Special Collections Library / Law Library

 

研修の第1日目は、モーテンソンセンターのあるイリノイ大学図書館において、現役のライブラリアンからの業務説明を中心としたもの。二日目および三日目は、近隣の大学図書館およびSpringfieldにある州立図書館を見学。最終日の4日目は、再びイリノイ大学にて工学図書館等の見学を行った。


2. イリノイ大学図書館における講義、インタビュー、見学・・・研修1日(10月25日)

 

2.1 Interlibrary Loanについて 担当: Lynn Wiley

■ 2004年処理件数

貸借依頼: 87,500件(うち、36,000件はILLセクション(IRRC: Information Resource Retrieval Center)への申込、51,500件は利用者が直接ILLINET-online経由で申込)<--ILLINET-onlineについては後述。

貸借受付: 136,400

相互提携館に優先的に依頼することで、結果的に有料となったのは、全リクエストのうちの四分の一以下であった。しかもイリノイ大学は受付が依頼を上回っているので、受付分の収入で依頼分のコスト全部を賄うことができる。

■ サービス内容

イリノイ大学構成員は、学内図書館で入手できない資料をIRRCを通じて原則として無料で取り寄せることができる。利用者は図書館システム上の各自のアカウントにログインした状態で申込の手続きをする。雑誌論文のリクエストをした場合、多くは電子ファイルの状態でIRRCに届く。電子メールで資料到着の知らせをうけた利用者は、各自のアカウントから当該ファイルにアクセスするしくみである(電子ファイル以外の形態で受け取りたい場合の相談も可能)。至急のリクエストには有料で対応しているとのことである。

 

この他、以下のようなサービスも提供している。

(1)           ILLINET-online (無料)

ILLINETは、イリノイ州の4,000館以上の図書館がメンバーとなっているリソースシェアリングを主目的としたネットワーク。その中にILCSO1)というコンソーシアムがあり、現在65の図書館がメンバーとなっている。この65館はILLINET-online2)という名称のシステム/ユニオンカタログを共有している。

このシステムには貸借申込機能があり、利用者は検索結果から直接貸借の申込をすることができる。しかも、この申込は直接申込先へ流れるため、IRRCを通ることはない。受取り場所も指定できるが、これを所属の図書館以外とすることもできる。その場合、申込から利用終了のどの段階にも、イリノイ大学図書館は関与しないことになる。ちなみに、申込先はシステムがランダムに選択する。昨年度は、イリノイ大学のユーザがこの方法で取り寄せた件数は6万件に上ったということである。

システムはEndeavor Information Systems, Inc (現在はエルゼビアに買収されている)のVoyagerである。

(2)           OCLC-WorldCat (無料)

ILLINET-onlineで所蔵館が見つからない資料はOCLC-WorldCatで検索。検索結果からそのまま貸借申込に移れるが、これは利用者から相手館への直接申込ではなく、IRRCをとおる。

仕組みとしては、OCLC-WorldCatInterlibrary LoanのシステムをOpenURLでマージしてあるとのこと。使用しているILLマネジメントソフトは、ILLiad

(3) Doc Express (Take us with you!) (有料、クレジットカード決済)

出張、留学、サバティカルなどで大学を離れているユーザにイリノイ大学所蔵の資料をインターネットで送り届けるサービス。世界のどこにいても自館の所蔵資料が利用できる。図書館は資料(本の章、雑誌論文など)をPDFファイルにして、インターネットで利用者に提供する。データはIDとパスワードでプロテクトされており、使用後は自動的に削除される。

なお、イリノイ大学に所蔵していない資料の章、論文などについては、ILLサービスの扱いとなり、リモートユーザのデスクトップ宛に無料で提供されている。

■ イリノイ大学が学外へ提供するILL

OCLCが主だが、OCLCILLに参加していない図書館には、ILLiadIDとパスワードを発行している。これを使うと、OCLCを介さずイリノイ大学に直接オンラインで依頼することが可能。

海外からは年間約2,000件の依頼を受けている。(日本の大学図書館でも申請さえすればIDとパスワードが発行され、以後イリノイ大学に直接オンライン申込ができる。)

■ 他係との連携

(1)           レファレンスとの連携:

1日の申込受付件数(イリノイ大学ユーザの申込)のうち、2割程度(日によって違うが、10件から60件程度)は調査の必要なもの。ILLの担当者に調査をしている余裕はないので、バーチャルレファレンス担当者に調査を依頼している。この流れをスムーズにするために、ILLマネジメントシステムとバーチャルレファレンスをリンクした。決められたフォルダに難解なリクエストを移しておくと、夜間にバーチャルレファレンスのスタッフがそこにアクセスし、空き時間を使って調査をしてくれ、結果をILLに戻してくれる仕組みを作った。」

(2)           受入との連携:

Own instead of Loan

「貸借の申込が来たものでも、図書館に所蔵したほうがよさそうなものは受入と相談して購入してしまうことがある。まだ完全に機能しているわけではないが、これまでに100冊位購入した。

特殊な主題の資料については、その主題に関係がある分野別図書館に購入しないかどうかを打診する。価格が問題で購入できない場合には、ILL担当部署と分野別図書館とで折半して購入することもありうる。」

■ 情報リテラシーに絡む問題

「せっかく多くの資料を所蔵していても、利用者がその資料の存在に気がつかなければILLの申込をしてしまうことになる。

イリノイ大学では、パッケージで購入したフルテキストのリソースをユーザが探しきれないという問題があった。タイトル単位で購入している電子ジャーナルはOPACに登録されても、パッケージに入ってくるだけのタイトルは登録されない、というところに起因する問題である。これに対処するため、電子ジャーナルのオンラインインデックスを作成した。(ある雑誌についてEJ、冊子、マイクロなどでの所蔵状況が一覧できるリスト) このインデックスを作成するために、リンクリゾルバーを独自に開発し、TDNet(という会社)から雑誌データを購入した。雑誌データは定期的に最新のものが送付されてくる。この結果、利用者がなかなか探しきれなかった資料へのアクセスが良くなり、ILL依頼件数が大幅に減ることを期待している。」

■ 今後の展開

「索引データベースと電子ジャーナルをリンクさせることを考えている。索引データベースの検索結果と全文データあるいは所蔵情報をリンクさせて、所蔵がなければ、その地点からCitationを直接ILLシステムに送り込んでILL申込ができる環境を作りたい。そのための準備としてEx-Libris社のS.F.X.も購入した。」

ILLを担当していると、誰かが何かを探しきれない、使いたいものがない、という状況を通して、目録の問題、レファレンスの問題、受入の問題等が色々と見えてくるので面白い。」ということだった。

 

2.2 Entrepreneurial Programについて 担当:Lynn Wiley

イリノイ大学図書館では、大学から割り当てられる予算に加え、外部からの資金獲得を積極的に行っている。これは主に館長の仕事であるが、個々の図書館員レベルでも、資料購入費の捻出のために寄付を募ったり助成金に応募したりすることがあるそうである。「Grant Paperの書き方」は、図書館情報学大学院の授業科目にもなっているほど、今日の図書館員には必要なスキルのひとつとされているらしい。

Lynn Wiley氏は、そのような図書館独自の資金調達の一環でもあるEntrepreneurial Programを任されている。具体的には、「図書館の各種サービスについて、外部の人が『対価を払ってでも欲しいものかどうか』を検討し、実際に売れる可能性があるものを探す。」というものである。

このような仕事をしている図書館員はアメリカでもまだ少ないが、Johns Hopkinsには担当のライブラリアンがおり、遠隔教育のコンポーネントを図書館で作成し、インターネットで販売するプロジェクトに取り組んでいるということだった。

(1)すでに販売しているもの:

         IRISIllinois Researcher Information Service3)助成金(補助金)のインデクス

図書館のインデクサーが作成している。最初は学内の研究者向けのサービスとして始めたが、今では販売しており、成功している。州からの予算が減りつづける中、助成金は大学の活力にとって大変重要になっているとのこと。

         ABSEES(The American Bibliography of Slavic and East European Studies )ロシア東欧関連の英文文献目録

Slavic and East European Libraryのコレクションは素晴らしく、しかも主題としてかなり特殊。ユニークでかつ大学に威信を添えることのできる企画とのこと。

(2)今後販売できる可能性があると考えているもの:

         リンクリゾルバー

         オンラインクラスのコンポーネント

The head of office of technologyが、デジタルコンテンツの作成をテーマにオンラインクラスを作った。このクラスには本来実習もあるが、実習抜きのコンポーネントだけを手頃な価格でオンライン販売できないか検討している。

         卒業生が購入したいと思いそうなもの

・ 学生時代の本人の写真

・ Yearbook

・ 本人の卒業論文

         図書館の中にギフトショップを作りたい

大学の名前の入ったカード、ポスターなど、さほどお金にはならないものでも、卒業生の帰属意識、大学のブランドを意識していくことは大切。

(3)その他:

コースマネジメントシステムを使用し、Online educationを取り入れている教員を集め、会議を開いた。教員と協力し、コースマネジメントシステムと図書館の情報サービスを統合させたいと考えている。学生に図書館資源の必要性を改めて理解してもらう良いきっかけになると思う、とのことだった。

Entrepreneur Programは面白く、館員からのアイデアもたくさん集まるが、難しい点は実現可能なものとそうでないものの見極め。結果として逆に資金を無駄にしても良くないので、今のところ、明らかに実現可能なことだけをやっている。既にうまく行っているいくつかのものをうまく回すことにほとんどの労力を割いているのが実情、とのことだった。

 

2.3  資料受入について 担当:Karen Schmidt Associate University Librarian for Collections,  Lisa German Head  Acquisitions

イリノイ大学図書館は、世界最大の公立大学蔵書(約1,000万冊)を有し、総資料予算1,100万ドルのうち、約1割の120万ドルが電子媒体のために確保されている。今年初めて、オンラインと重複した抄録誌の冊子体をキャンセルしたが、3つのキャンパスのうち1キャンパスでは冊子体を継続している。

Xreferplusの購入開始に伴い、キャンパス内のレファレンスブックの重複をキャンセルし、Main Libraryのみが冊子体レファレンスを購入している。

データベースの購入の約50%は、コンソーシアムを利用しており、例えばCICThe Committee on Institutional Cooperation)は、私立大学もメンバーに含んだ13の学術機関のコンソーシアムであるが、Alexander Street Press発行の一次資料データベースなどを割引価格で購入している。ただし、あるデータベース購入のために特定のコンソーシアムに加わるようなことはしていない。教員や学生のデータベース希望は最優先されるが、選択は図書館員が行っている。

雑誌価格の値上がりに対処するため、教員の意見を聴いた上で、600タイトルの購読中止をこの秋に実施した。

イリノイ大学には40以上の部門別図書館があり、予算は88の分野に分かれている。各予算ごとに雑誌やモノグラフなどの予算がある。資料購入にはApproval plan4)Blanket orderなどが実施されている。Approval planでは、図書館が作成したprofileという選書基準を元に週1回出版社が納品し、不要なものは返品もでき、大幅な割引を受けることができるもので、予算対策として導入されている。2003年におけるApproval planでの購入費用は79万ドルである。

 

2.4 Virtual Referenceについて 担当:Kathleen Kern

■ バーチャルレファレンスに至った経緯

アメリカの図書館においてレファレンスサービスが意識的に活発に行われ始めたのは1930年代。電話によるレファレンスはその初期の頃からほとんどの図書館で行われていたが、本格的になったのは50年代で、ちょうどビジネスで電話を使うのが普通になった時期にあたる。(電話もリモートサービスのひとつである。) Eメールによるサービスは15年〜20年位前から提供され始めた。チャットレファレンスは、最近4年位の間に盛んになってきたサービスである。

レファレンス手段別の割合では、現在チャットが約12%Email7%、電話は20%、残りは対面のレファレンスである。図書館外から使える(リモートアクセスできる)リソースが多いほど、またそれらを利用する利用者が多いほど、バーチャルレファレンスの件数も多くなると思われる。

一方で、レファレンスの全体的な件数は1996年ごろから減少し始めた。96年頃というのは、それまで紙やCD-ROMで購入していたものをオンライン契約に切りかえ始めた時期にあたる。証明はできないが、相関関係はあるのではないかとみている。(イリノイ大学だけに見られた現象ではなく、全国的に見られた現象だったという。)

質問数減少の理由として、以下のような分析をした。

1)  ある種の質問(特にFactual Information、例えば、「ナイル川の長さは?」のようなタイプ)は、インターネットで簡単に答えを見つけられるようになった。

2)       利用者は自力でデータベースを使っている。

3)       データベースが十分使いやすくできている。(そうであって欲しい)

4)       利用者は館内におらず、リモートで図書館サービスを利用しているが、(1)家やドミトリーに電話回線が一本しかないので、オンラインリソースを使いながら同時にレファレンスに電話することができない。(2)コンピュータ室などで図書館サービスを利用しているが、そういう環境下では電話が使えない。等の事情で、「質問したいけれどできない」状況にある。

以上の理由のうち、(4)の分析からEメールレファレンスは始まり、その後チャットレファレンスに発展した。(チャットレファレンスのサービス開始は2001年1月)

当初は、Emailやチャットによるレファレンスを受け付けたら、件数が多くなりすぎて対処しきれなくなるのではないかと心配する図書館員もいたが、実際にはそうはなっていない。レファレンスの総件数が減ってきてしまっていることを考えれば、もしチャットによって件数が多くなるとしたらそれはむしろ歓迎である。そうなった場合、件数の増加を問題視するのではなく、図書館側のスタッフ体制をいかに増強できるかを考える。

■ Email、チャット:それぞれの特徴

Email

長所: ・ 時間を気にせずいつでも質問を送ることができる。

     ・ 館員は回答の作成や調査に時間をかけられる。

短所: ・ 質問が送信されてから回答までに時間差がある。

・ 利用者の質問の意図が不明確なことがある。(質問の意図を確認しようとメールを返信すると、それっきり返事が戻ってこないことが多く、レファレンスを成し遂げられない。)

チャット:

長所: ・ 電話で会話をするのと全く同じ。(海外にいる利用者にも便利。電話をすれば電話代

が高いが、チャットならお金をかけずに電話とほぼ同じように相談ができる。)

         質問内容や質問の意図が不明確でも、すぐにその場で確認が取れるので、レファレンスを成し遂げられる確立が高い。

短所: ・ 終日のサービス提供は不可能。

         館員のタイピングスキルによってはサービスを行なうのが難しいこともある

         質問内容によっては、チャットでの対話がふさわしくないこともある。

そういう場合、電話やメールへの切りかえを頼んだり、来館してもらったりすることもある。

■ ソフトウェア

チャットレファレンスに使用するソフトウェアは、通常、インスタントメッセンジャーにはない機能を備えている。

         Co-browsing。 チャットをしながら、相手に自分の見ている画面を同時に見せられる機能。(検索画面を表示しながら説明をする、など。)

         チャットを別のライブラリアンに転送する機能(質問内容に適した専門知識をもったライブラリアンへの転送など)

         進行中の別のチャットが見られる機能

         予めメッセージ(雛型)を登録しておく機能

         統計機能

         質問者とのやりとりを保存する機能

など。

イリノイ大学図書館では、2年ごとにシステムを見直すが、現在使っているのはDocutekというソフトウェアである。そのほかよく使用されているものには:

         Tutor.com

         Question point

         liveperson

等がある。

図書館によっては、Instant MessengerAOL Instant Messenger、その他のフリーソフトを使用しているところもある。

■ 他館との協力の可能性

イリノイ大学では十分なスタッフ数が確保できているため、今のところ外部との協力は考えていないが、一般的に次のような図書館とはうまく協力できる可能性がある。

         時差のある図書館(目的は、時差を利用したサービス時間の拡大)

         蔵書(オンライン、紙とも)の傾向が似ている図書館

         専門分野が類似している図書館

         資料を既に共同購入している図書館(コンソーシアムなど)

考えられる問題点:

         他館の利用者からの質問で意外に難しいのはポリシーに関する質問。

         互いに異なるオンラインリソースを契約している場合、自館でアクセスできないものへの質問が来たときに回答が難しい。

         なじみのない領域の質問が来ることを想定しなければならなくなり、研修が課題となる。

など。

■ チャットサービス導入を決める前に検討すべきこと

         チャットは自館に本当に適したサービスか。

         利用者として誰を想定するか。

         それらの利用者からどのような質問が来るか。

         自館の利用者にとって有益なサービスか。

         図書館にとって有益なサービスか。

これらに答えながらポリシーを組み立てるとよい。

コスト(スタッフ、ソフトウェア)、ソフトウェア、スタッフ体制なども当然重要な検討事項。

ALAの構成組織であるRUSA(The Reference and User Services Association)は、レファレンス・情報サービスにおける行動指針5)及び、バーチャルレファレンスサービスのガイドライン6)を作成している。

■ イリノイ大学におけるチャットレファレンスのサービス体制

         図書館開館中(9時から23時)途切れなく対応。

         Main Library, Undergraduate Libraryの司書とGraduate Assistants、分野別図書館の司書のうち複数名が、レファレンスデスク内で常時ログオンしている。質問が来ると、そのときに対応可能な人がそれをピックアップする。

         Emailは利用者が宛先を選ぶのに対し、チャットの場合宛先を一本化している。

■ プライバシーに関わる問題

バーチャル環境において、プライバシーは重要な問題である。

記録を残すのであれば、どの程度の期間残すのか、利用者の個人情報は残すのか残さないのか、あるいは質問事項にあたる部分とは切り離して残すのか、それとも個人情報に相当する部分だけ破棄するのか、記録を見てよいのは誰か、など考えておくべきことがある。

イリノイ大学では、記録は統計目的にだけ使用するため、個人情報に相当する部分はすべて破棄している。質問内容によっては、氏名等が明らかでなくとも、その専門分野から質問者が限定されてしまうこともあるが、こういったものは質問ごと破棄している。また、Emailについては、まったく保存していない。

■ 利用促進のために

         利用者の目にとまるように、ホームページのあらゆる場所に「Ask A Librarian」というページへのリンクを設けている。統計から、OPAC利用中の質問も多いことがわかったので、OPAC画面中にもリンクを設けた。

         オンラインでなくともコンタクトが取れることをアピールし、「いつでもどこからでも、必要な時にサービスが受けられる」という印象を持ってもらえるようにしている。

■ レファレンス質問の分析

イリノイ大学において、2001年秋と2002年春に、実際に質問を受けた1109件のレファレンス質問について内訳を分析したところ、手段別では、チャット19%Email6%、対面50%、電話24%であった。質問別では下表のような結果が出た。7)



 

チャット

Email

対面

電話

OPACDBの機能

8.7%
(
チャットの中で)

3.8%
(
メールの中で)

5.4%
(
対面の中で)

5.8%
(
電話の中で)

DBへのアクセス

5.5

      5.0

0.07

2.5

ILL

3.7

13.8

4.6

2.1

特定の資料の所在

20.2

23.8

37.3

26.9

ポリシー

12.8

8.8

6.2

13.2

その他

4.1

7.5

7.2

10.3

ホームページの使い方

8.3

3.8

2.1

3.7

リサーチアシスタンス

29.8

23.8

30.9

11.2

事項質問

6.9

       10.0

5.6

24.4

 

         多くの質問が「特定の資料の所在」に関するものだった。

         2番目に多かったのは、「リサーチアシスタンス」だった。利用者は調べたい事項はあるが、その情報をどのように探したらよいかわからず、アシスタンスを必要とした。

         事項質問は驚くほど少なかった。

         DBアクセス」に関する質問では、「対面・電話」に比べて「チャット・メール」が多くなっているのは、予想通り。

         「リサーチアシスタンス」の依頼は、「チャット・Email」でも「対面」でも同様に高い割合を占めた。

 

2.5 図書館見学 (Asian LibrarySetsuko Noguchi氏の案内による)

   Rare Book & Special Collections Library / Asian Library / Womens study Library / Government Document Center / Reference Desk

1)貴重図書・特別コレクション図書室(Rare Book & Special Collections Library
http://www.library.uiuc.edu/rbx/

1,100冊のインキュナビュラ、マイクロ資料、マニュスクリプトなどを含む25万冊の蔵書がある。貴重資料のデジタル化のプロジェクトがあり、German Emblem Project8)として、ドイツの紋章を含む図書のデジタル化、Motley Collection of Theatre and Costume Designとして、劇場衣装デザインに関する資料のデジタル化が行われている。9)

 

2) アジア図書館(Asian Library)(http://www.library.uiuc.edu/asx/

コレクションの範囲は、いわゆるCJKの他、アラビア語、ヘブライ語、インド語、ペルシア語、インドネシア語、ベトナム語、タイ語などであり、約37万冊の蔵書がある。東アジア圏の蔵書は約24万冊あり、中西部では3番目、米国内では14番目の規模である。

イリノイ大では目録作業をTechnical Serviceで集中的に行い、各図書館の書架に配架しているので、本を見る機会のない図書館員もいるが、Asian Libraryでは選書、受入に加え目録作業も自分たちで行っている。分類はLCを採用、英語で書かれたアジアに関する資料はデューイで分類している。予算的に最も重点を置いているのは、中国語資料で、次が日本語資料である。Asian Libraryのホームページ上では、China Academic Journals-FMagazinePlusが提供されている。

その他の施設として、Government Documents Library, Women and Gender Resources Library, Main Libraryのレファレンスコーナーなどを見学した。

 

2.6 図書館長Paula Kaufmanへのインタビュー
http://www.library.uiuc.edu/administration/librarian/

1)資金調達(Fundraising)について

以前は大学全体の予算の5割以上だった州からの補助金が、現在は2割に満たないところまで落ちてしまっている。そのような状況下で大学が活力を維持するためには、外部からの資金調達が欠かせない。イリノイ大学自体も、図書館も、そのための制度をそれぞれ持っている。

キャンパスレベルでは、資金集めを専門に扱うDevelopment Officeがあり、専門家が4人とサポートスタッフ2人がいる。寄付の可能性を調査し、申請の準備の手助けをしてくれる。

図書館長は仕事の2530%くらいを資金調達に関わる活動に充てている。時間がかかり、多くのサポートを要する仕事である。

■ 館長の活動の一例:

         潜在的な寄贈者が集まるイベントが国内各地で開かれる。これらに出向き、図書館の活動や、図書館をサポートすることの意義をプレゼンテーションで訴える。

         図書館の活動を支援してくれそうな潜在的寄贈者と積極的に関わる。図書館主催の催しに際して開く食事会などに招待し、図書館への理解を深めてもらうきっかけとして活用する。

         学内での予算獲得のために、ChancellorDeanProvost、教員、などに図書館の活動や図書館が必要としているものなどを常に説明する努力をしている。図書館のことを説明なしにわかってもらえることはあり得ない。

これらはまさに図書館のプロモーションであり、図書館管理者の仕事の重要な部分を占めると考えている。

また、図書館単独に限らず、他組織とあらゆるユニットを組んで活動を展開している。

例:

Athletics departmentは、学部学生がほとんどを占める。Undergraduate Libraryを支援することは、Athletics departmentの学生を支援することにつながる、という考えにより、図書館のために50万ドル集める約束をしてくれた。

・ アメフトの試合日程のうち1日を「Library Day」として、それにあわせて各種のイベントを企画した。例えば、イリノイ出身のスター選手に、「図書館と、それを支えることの大切さ」をテーマに話してもらった。

         今アメリカで流行しているLans Armstrong(スポーツ選手)の黄色いブレスレットを大学カラーのオレンジで作り、ひとつ2ドルで販売している。その収益の一部が図書館に入るようにしてくれた。

2)アウトリーチについて

イリノイ大学図書館は、大学の研究や教育を支えることに加え、公立図書館として持てる資料や知識を一般社会と共有していくという使命を持っている。ちょうどこの11月に予定されている企画(下記)は、そのアウトリーチ活動の新しいスタンダードになったと思っている。

 

例:貴重資料の公開

図書館には、アメリカの有名な作曲家John Phillip Souzaの、「星条旗よ永遠なれ」を始めとした楽譜資料等が所蔵されている。今年11月はスーザの生誕150年にあたることから、これを期にアートミュージアムと共同で資料を公開することにした。

         図書館のアーキビストが上院議員を動かし、国レベルで正式に11月を「American Music Month」と定め、全国レベルのイベントという形に持っていくことに成功した。

         アートミュージアムでは、大学所蔵の「星条旗よ永遠なれ」とアメリカ議会図書館所蔵の「星条旗よ永遠なれ」を並べて展示する。(片方は注釈がついており、片方にはそれがない。)

         学内外で様々に協力し、スーザという共通テーマのもとに関連イベント、講演会、演奏会等を企画。教育・研究と結びついた総合的な企画として展開する。(イベントに出演するパフォーマーのひとりは音楽業界にいる人であるため、大学のビジネススクールとロースクールでも講演してくれる、など)

資料の公開にあたっては、入念な企画により、資料に新たな付加価値が加わるような工夫がなされている点、関連企画が教育にもリンクされている点が印象的だった。

館長によると、これは図書館のプロモーションでもあり、アウトリーチ、つまり図書館の持つ資料や知識を社会と共有していこうという意味のある活動でもある。知識の共有と提供は、イリノイ大学図書館の使命であり、世界有数の図書館として、今後もその役割を果たしていくつもりである、とのことだった。

3) 図書館員としてどんな人材を求めるか:

         基本的には、図書館情報学の修士号、またはそれと同等の資格をもつ人、それに加えて、

         司書の仕事、およびその価値を理解している人

         偏見がなく、広い心を持った人

         フレキシブルに物事を考え、あいまいさを容認でき、人(対個人でもグループでも)と話し自分の考えを述べることを恐れない人

         知的好奇心にあふれ、知識を人と共有することを望む人。

 

2.7 Mortenson Dinner

The 2004 Distinguished Lecturerであるウガンダの Makerere University前副学長、 P J M Ssebuwufu氏およびFall 2004 Programの参加者17人と共に、Levis Faculty Centerでの夕食に招かれた。中央大学の梅澤氏他、コロンビア、南アフリカ、ケニア、ウガンダ、ベトナムからの図書館員との交流は、貴重な機会であった。

 

3. イリノイ大学周辺の大学図書館見学・・・研修第2日(10月26日)

 

3.1 Illinois Wesleyan University (イリノイ・ウェズリアン大学)図書館見学

http://www.iwu.edu/library/

(案内:Sue Stroyan; University Librarian , Marcia Thomas; Director of Technical Services

イリノイ・ウェズリアン大学は、イリノイ州のBloomingtonにある学生数約2,200人、教員170人規模で、リベラルアーツ(一般教養)の他、芸術、音楽、看護学を教える学部レベルの私立大学。

図書館は2002年1月にオープンしたThe Ames Libraryという中央図書館のみである。建設資金は2,600万ドル、床面積約67,000平方メートル。木製の書架や家具などが素晴らしく、16室ものグループ学習室があるが、見学時(午前中)には誰も利用していなかった。コンピュータルーム、講堂などの設備や施設が完備している。

図書・雑誌・ビデオなどが同じ書架に並んでいるのは珍しいが、媒体の違いを超えて特定のテーマの資料を捜せるという利点がある。

Information Literacy Programとして、図書館員が教員からの依頼に応じる形で、各種のLibrarian Resource Instruction Sessionsを授業の中で行っている。十人足らずの図書館員が、リベラルアーツの幅広い分野から2-5分野を、教員や学生数に基づいて担当しているLibrary  Liaisonのシステムは、日本でも大いに参考になると思われた。

図書館員の一人は、英文学、哲学、女性学の3分野を担当し、各分野のニーズに合わせた図書館の使い方やオンライン資料の使い方、レポートの書き方などリサーチに必要な各種のインストラクションを行っているが、英文学以外のバックグラウンドはなく、自分で勉強しているとのことだった。教員と緊密に連絡を取り、教員の主題知識と図書館員のデータベースなどのリテラシー知識を融合させている。図書館員の特長を生かし、教員との協力により、効果的な情報リテラシー教育が行われているように思われた。

オンライン資料の購入においては、コンソーシアムを利用することと、冊子体との重複は避けることが予算対策として行われている。

受入・整理業務の多くはOCLC Tech Proに委託されており、日本で見られるように事務室で作業をしているスタッフはほとんど見られなかった。

資料のデジタル化では、イリノイ州立図書館からの補助金を受け、1894年から2003年までの学生新聞のデジタル化が完了し、インターネットで公開されている。資料のスキャニング自体は外注している。

ソフトウェアは、すでに完了した前企画ではイリノイ州立図書館独自のものを使用したが、次のプロジェクトでは、コンソーシアムを通じて導入したCONTENTdmを使って、大学が保有する陶器コレクションのデジタル化を企画しているそうだ。

CONTENTdmは非常に高額なソフトだが、イリノイ州立図書館によると、来年度はILLINETの中のOCLC参加館約3,800館でその費用を分担することになるということだった。

館内の案内係は、退官した元教員の方が務められていた。また、館内のいたるところに、卒業生や教員による絵画や彫刻などの作品がたくさん飾られており、この大学のコミュニティ意識のようなものが伝わって来るようだった。

 

3.2 Parkland College (パークランド・カレッジ)図書館見学 (案内:Anna Maria Watkin)

http://www.parkland.edu/library/

公立のコミュニティーカレッジで、約10,000人の学生が学んでいる。

開館時間は学期中でも午前7時から午後9時まで。金曜、土曜は開館時間が短く、日曜日は閉館となっている。予算削減のため、閉館時刻が午後10時から午後9時に早められたがリモートアクセスが整っており、苦情はないとのこと。

コミュニティーカレッジということで、基本的にここを拠点に研究活動をしている教員はいない。また、学生も学位を取りに行く前段階の学生が中心であることから、大学図書館とは蔵書構成などが必然的に異なる。とはいえ、イリノイ大学、イリノイ・ウェズリアン大学と共通のコンソーシアムに属し、カタログを共有することで、自館でカバーできない資料へのアクセス手段は十分に確保できている。

いわゆる一般的な読み物(ペーパーバック)などは、いつも新しいものを提供できるようリース契約をしていて、業者が「まとめて何十冊」という単位で定期的に入れ替えていく仕組みになっている。

eリザーブや、担当の図書館員が一人で年間100コマ以上受け持っているというリテラシーセッションは、大学図書館以上に充実している。学部ごとにLiaison Librarianを指名し、教員との連絡、情報リテラシー教育の普及を図っている。特に新学期(秋)には、department meeting を行っている。

スタッフは、4人の図書館員と数人のパートタイムスタッフという少人数で構成されている。システム担当はいないが、ILLINET-onlineシステムを他館と共有しているので、支障はないとのこと。

レファレンス・ライブラリアンに自己研鑽について尋ねたところ、ライブラリー・ジャーナル、関係するメーリングリスト等から情報収集しているとのことであった。

 

4. イリノイ州立図書館等の見学 研修第3日(10月27日)

 

4.1 Illinois State Library(イリノイ州立図書館)
http://www.cyberdriveillinois.com/departments/library/home.html

1) Welcome to the Illinois State Library (Jean Wilkins; Director)

イリノイ州立図書館は州議事堂の隣に位置し、州立中央図書館として、資料やレファレンスサービスの提供により、州機関の業務を支えることを第一のミッションとしているが、その他に、州内4,000余りの図書館が参加するコンソーシアムILLINETの運営、それらの図書館を対象としたコンサルティング業務や、各種のGrantプログラムを提供するなど、州内の図書館をリード、あるいはサポートする大切な役割を果たしている。

 

2) Illinois Digital Archives(イリノイ ディジタルアーカイブ.10)について (担当:Alyce ScottDigital Imaging Program Manager

イリノイ州立図書館では、4年前からIllinois Digital Archivesというサービスをホームページ上で展開しており、デジタル化した資料はここで公開されている。デジタル化の対象となる資料は図書館に所蔵されているもので、州の刊行物、州の文化や歴史に関わる内容のもの(しかも、Primary source(オリジナル)、未出版のもの)、その他劣化の激しいもの、利用の多いもの等である。州の刊行物は誰もが自由に使える資料だが、それ以外については著作権処理に非常に注意を払っている。イリノイ州立図書館では、州内の図書館に、資料のデジタル化に対する助成金を出している。助成を受けた図書館のコレクションのイメージとメタデータは州立図書館のサーバに集積され、Illinois Digital Archiveのサブコレクションに加えられる。(したがって、デジタル化する資料のテーマもそれに沿うものということになる。)

助成を受けた図書館にデジタル化の経験がない場合、研修機会を提供し、特に

               スキャニングとメタデータ作成についてのBest practices(最優良事例)

               ANSI/NISO 制定のスキャニングに関するスタンダード

               メタデータ(ダブリンコア)

を習得してもらうことに力を入れているとのことだった。

イリノイ州立図書館のデジタル化プロジェクトは、将来的にイリノイ大学図書館の”The Open Archives Initiative”へのデータ提供の予定もあるため、メタデータの習得は特に重視しているとのことだった。

これまで独自開発のシステムで運用してきたが、来年よりCONTENTdmDigital collection management software)を導入予定で、現在データの移行作業中。

今のシステムは実質、イメージのタイトルとメタデータが検索可能なレポジトリにすぎないが、CONTENTdmに移行後は、メタデータだけでなく、イメージをOCRによりテキスト化した全文ファイルを入れることができるようになる。一度の検索で、サブコレクションも含めた全体を(しかもテキストデータのあるものは全文を)検索できるようになる予定とのこと。

また、来年はマルチサイトサーバの導入が決まっている。イリノイ州では、イリノイ大学をはじめ、かなりの図書館が既にCONTENTdmのサーバを持っているが、マルチサイトサーバが導入されると、それらの図書館のコレクションとリンクすることが可能になる。利用者はすべてのコレクションを一度に検索することができるようになる。今後、対象となる大学とCONTENTdmのユーザグループを作り、話し合いを始めることになるだろう、とのことだった。

CONTENTdmのライセンス料は非常に高額のため、来年は州内3,800OCLCメンバー館で料金を分担することになっているそうである。

CONTENTdm以外では、ニュージーランドの”Greenstone”というシステムがよく使われているとのこと。オープンソースで、自由にカスタマイズができる。実際にこれを使ったコレクションをいくつか見たことがあるが、わりといい感じ、手始めに使ってみるには良いのではないか、ということだった。

 

3) Virtual Training session.

Microsoft Live Meetingを使用し、今年夏に利用可能となったSILCState-wide Illinois Library Catalogue11)のバーチャルトレーニングを行っている現場を見学した。

SILCはOCLC WorldCatのサブセット。WorldCatとイリノイ州のローカルなOPACを融合させたユニオンカタログで、ILLの機能もついている。検索結果がローカルカタログにリンクし、所蔵館の貸出状況まで確認できる。これはOCLCの"Open WorldCat Program"により可能となった技術とのことだった。

バーチャルトレーニングでは、OCLCのスタッフ2名がイリノイ州立図書館の一室でパソコンとスピーカーフォンを前に座り、受講者が揃うのを待っていた。受講者は、研修の開始時間が近づくにつれて各自自館のパソコンと電話を使ってアクセスしてくる。スタッフは、画面の表示によって、ログオンしている受講者の数を把握できるようになっているので、一人ログオンしてくるごとに氏名や正しくログオンできているかなどを確認しながら簡単な会話を交わしていた。

見学した日は参加者が少なかったので、「わからないことがあれば、その場で質問しても良いことにしましょう。もしそのせいで先に進めなくなるようなことがあれば、その件については終了後に電話で個別に対応することにしましょう。」と言っていた。大勢が参加する時には、質問のタイミングを制限しないと進行に影響が出てしまうとのこと。

一度に50名まで参加することが可能とのことだったが、数名でパソコン1台を囲んで参加することもできるので、実際にはそれ以上の人数でも研修が可能だという。

受講者は、職場を空けずに講習に参加することができるので、小規模の図書館などに特に好評とのことだった。

このシステム(Microsoft Live Meeting)自体はかなり高額なものだが、OCLCが契約をしており、イリノイ州立図書館が、そのネットワークの一員ということで、利用希望日に空きがあれば使用を許可されているということだった。

 

4) 図書館見学 

書架は閉架式で、各階からの運搬には、荷物専用のリフトが利用されている。イリノイ州立図書館の所蔵資料500万点のうち、地図は185千点以上であり、アメリカ合衆国の州立図書館中、2番目の規模である。大半の地図資料はILLINET-onlineで検索できる。また、イリノイ州に住んだことのある作家や、イリノイ州関連の書籍を書いた作家"Illinois author"のコレクション収集にも力を入れており、その作家リストはホームページ上で見ることができる。

毎年Illinois Authors Book Fair が開かれ、初版やサイン入りの書籍をコレクションに加え、それらは1階にあるIllinois Authors Reading Roomに展示される。

 

5) Presentation on Illinois State Library e-resources (Barbara Alexander Network Consultant)

データベースに関しては、2004年で5年目になるTry-It! Illinoisという事業を実施しており、35社のベンダーの協力により、10〜11月の2ヵ月間ILLINETのメンバー図書館およびその利用者に対して、データベーストライアルの機会を提供している。また、E-Rich Resource Offeringとして、データベース購入への補助、コンソーシアム価格での契約、ILLINETのメンバー館すべてへのFirstSearchサービスの提供などを行っている。

 

5. イリノイ大学図書館見学、インタビュー(その2)・・・研修第4日(10月28日)

 

5.1 Grainger Engineering Library (グレインジャー・工学図書館)Digital Media Resource Center: University of Illinois Library Digital Imaging (担当:Amy Maroso氏;  Project Coordinator

 

イリノイ大学図書館では資料のデジタル化のプロジェクトが進行しているが、このプロジェクトを技術的に支えているDigital Services and Development Unit12)
に所属するMaroso氏の案内で、機器等の見学をした。このユニットは図書館に属し、専門知識のある図書館員、Graduate assistance等のスタッフ(Full timeのスタッフとHalf time, quarter timeなど)が配属されている。

The Digital Media Resource Center13) は、図書館、その他の学内部署、利用者個人、外部機関などから来るデジタル化の依頼に応じて技術的な作業を担当するほか、研究活動、教育活動も行っている。Granger Libraryの中に拠点を起き、必要な機材、設備が揃っている。

■スキャナの部屋

資料をスキャンする部屋には、40インチ(約1メートル)幅まで対応の大型スキャナが設置されていた。資料に負担がかからないよう、資料をマイラー(Mylar)シートに挟み、スキャナで読み込む。機材はVidar製で、ソフトウェアはスキャナに付属のものを使用している。取り込んだ画像はGIFファイルにして保存している。画像の大きさはオリジナルと同サイズにしている。大きな資料になるとファイルサイズが大きくなってしまうので、200dpi位にしている。画像の加工にはPhotoshopを使用している。

■メインラボラトリー

グレインジャー図書館の地下にある。窓がなく、外からの光が全く入らない点が作業に適しているとのことだった。この部屋には、以下のような機材が置かれていた。

Epson Flatbed Scanner 1640XLs 2台

Nikon D1 Digital camera

Nikon super Coolscan 4000 slide scanner

IBM T221 high-resolution monitor (9000pixel)

ABBYY fine reader 7.0 Professional

Transparency scanner (フィルムスキャナー)

その他サーバ機等

ソフトウェアは、基本的には機器に付属してくるものを使用している。

 

5.2 Grainger Engineering Library(グレインジャー工学図書館)の見学 (担当:William Mischo氏/Engineering Librarian)(http://web.library.uiuc.edu/grainger/

1994年、総事業費3,400万ドルの内、1,870万ドルをグレインジャー財団から、約1,000万ドルを州からの寄付で建設された全米で最大の工学系図書館。7,400人の学生と515人の教員をサービス対象としている。

ほとんどすべての閲覧席に合計約800の情報コンセントが設置され、大学ネットワーク、データベース、インターネットにアクセスする環境が整っている。無線LANも建物内のいくつかの場所で利用できる。また、図書館入り口には、キオスク端末があり、タッチパネル方式で図書館、大学に関連するさまざまな情報が入手できるよう工夫されている。

Headで、Engineering LibrarianWilliam Mischo氏による検索システムのデモンストレーションを見学した。

電子媒体の資料(特に雑誌)が増え、購入の形態も単体やパッケージなどに多様化していることから、「この雑誌を所蔵しているか?」という簡単な質問にさえ答えることが非常に難しくなった状況をふまえ、各分野別図書館それぞれにふさわしいポータルのかたちを時間をかけて検討してきたとのことだった。

Grainger図書館のポータルは、この図書館の利用者が情報を探すときの切り口の傾向(理系に特有なもの)にあわせたメニュー構成になっている。

例えばConference Proceedings等はこの分野に特有の資料で利用も多いが、一般的に探しにくい資料であるため、それを探しやすい仕組み14)をわざわざ作って提供しているということである。また、Journal Finder15)Find Specific Articles Full-Text16)などの仕組みも、あらゆる媒体に分散した資料を探しやすくするために自館で作成したものとのことである。

使用している技術としては、meta-searchfederated searchbroadcast search等がある。リンクリゾルバーは、現在は独自に開発したものを使用しているが、Ex Libris社のS.F.X.を購入する予定。また、Cross Refとも契約して、ソフトウェアはここで開発した。

ソフトウェアは、ベンダーのもののほうがずっとよかったり維持しやすかったりすることもあるので、適宜組み合わせて使っており、全てを独自に開発するわけではない。今はどちらかというと、ばらばらに分散する多数のレポジトリを、ユーザにとっていかに合理的な方法で提供するかという、ポータル開発のプロジェクトの方に力を入れたいということだった。

 

5.3 Media and Reserve Centerの見学(http://www.library.uiuc.edu/ugl/mrc/mrc.html

 

Undergraduate Library(学部図書館)に設置されるAV(Audio Visual)資料とリザーブ資料を扱うセンター。ライブラリアン1名とスタッフ7.5名で維持されている。約9,000タイトルのeリザーブ資料(リザーブ資料の電子版)、16,000のプリントリザーブ(リザーブ図書)、500タイトルのメディア(AV)を扱っている。

教員からプリントあるいは電子データで提供された資料は、専用のオンラインカタログから閲覧できる。キャンパス外からは、IDとパスワードによる個人認証が必要となるが、proxy serverを介して、24時間アクセス可能である。プリント資料はセンター内の6台のスキャナでpdf化され、提供されている。eリザーブ化するにあたっての著作権の確認は、図書館が行っている。17)

 

5.4 The Akbert E. Jenner, Jr. Memorial Law Library見学(http://library.law.uiuc.edu/

アメリカ法、外国法、国際法を中心とした蔵書数約70万冊の法律図書館。豊富な閲覧席(学習スペース)など、充実した施設を備えている。

スタッフは、フルタイム13名中、6名が教員の身分を持つライブラリアンで、さらに4名の大学院生のアシスタントが加わり、合計17名のスタッフで運営されているとのことであった。

 

6.総括

1)サービスについて

イリノイ州内の図書館が、規模や館種の違いを超えて、コンソーシアムを通じて広範囲にわたって協力し、効率的、かつ利用者にとって便利なサービスが運営されている様子を見学することができた。

イリノイ州立図書館がリーダーシップを取るILLINETには、4,000館以上の図書館が参加しており、その役割はオンラインデーベースの共同購入やILLにとどまらず、目録の共有(一部)や、資料のデジタル化に必要な高額なソフトウェアの共同購入、研修機会の提供や助成金の交付にまで至っていた。イリノイ州の市民に対し、図書館が協力し合って、できる限りの情報サービスを保証しようという目的のもと、ILLINETの果たす役割の大きさに驚いた。

ILLINET-onlineを使用したILLは、利用者がどこにいてもIDとパスワードを入力すれば申込可能で、受け取り場所まで指定できるセルフサービスの仕組みを実現しているが、個々の図書館レベルでも、電子資料の利用、レファレンス、eリザーブなど、リモートアクセスを前提としたサービスが提供されていた。2001年からイリノイ大学で導入されているチャットによるレファレンスサービスなど、利用者がいつでもどこでも情報を入手できるという視点に立ったサービスが追求されていた。そして、これらのサービスの細部まで参照できるほど、イリノイ大学図書館のホームページの内容は充実・整備されていた。

2)資料の電子化(デジタル化)について

イリノイ大学の貴重資料図書室における資料のデジタル化および公開、同じくイリノイ大学工学図書館における資料のデジタル化支援事業、イリノイ・ウェズリアン大学における図書館資料のデジタル化プロジェクト、イリノイ州立図書館におけるデジタル化プロジェクトおよびデジタル化支援事業など、資料の保存および公開目的のためのデジタル化は図書館活動の重要な位置を占めているようである。

日本とは著作権法上の違いがあるものの、教員が指定したコピー資料等の著作物を図書館スタッフがスキャンして、eリザーブとして学生に提供するサービスも行われている。このリザーブ図書制度などを通じ、図書館がカリキュラムをサポートする体制がおのずとできている。

3)図書館員(ライブラリアン)について

訪問した各図書館において、図書館員の職務が確立しており、情報リテラシー教育、レファレンスサービス、資料の電子化等において、専門的な役割を果たしていることを実感することができた。たとえば、情報を網羅的かつ的確に入手するための論文検索ポータルの開発なども図書館員が手がけている。また、情報管理・サービス能力に加え、主題知識を有するライブラリアンが情報リテラシー教育に関わっている。

イリノイ・ウェズリアン大学では、一人の図書館員が、必ずしも専門ではない複数の主題を分担して情報リテラシー教育に関わっていたが、日本の図書館員の参考になるかもしれない。

冊子体からオンラインへ資料への移行が進む状況下で、選択、購入のイニシアチブは図書館員が取り、予算的な問題の解決策としてコンソーシアムが大きな役割を果たしているようだった。

 

先進的なサービスを展開する現場を見学し、そこで働く図書館員に接し、話を聞くことができたことは貴重な経験となった。現場で受けるインパクトは強く、よい刺激を受けた。

講義、インタビューを通してもっとも印象に残ったのは、館長をはじめとする図書館員の熱意、図書館の役割を常に意識する姿勢だった。アメリカの図書館では、Mission Statementが館内に掲げられていたり、ホームページで公開されたりしているが、図書館員からも、「our mission」という言葉がよく聞かれた。ミッションやポリシーがしっかり共有され、サービスや業務を展開していく上での指針、拠り所として実際に機能している様子はとても印象深かった。また、各種サ−ビスや図書館の諸活動が、他のサービス、教育・研究など、随所で有機的に結びついている現状にも感銘を受けた。

図書館を取り巻く社会的環境や制度上の違いなどからアメリカの図書館の事例が必ずしも全て参考にできるわけではないが、今回の経験を、参加者一同自らの業務に何らかの形でいかしてゆくよう努めたい。

最後に本研修をサポートしてくださった私立大学図書館協会国際図書館協力委員会の皆様、研修期間を通じてお世話になった、モーテンソンセンター所長のBarbara J. Ford氏ならびにコーディネータのSusan Schnuer氏、世話役を引き受けてくださったイリノイ大学アジア図書館のSetsuko Noguchi氏に深謝いたします。

 

(本報告は、研修中の講義、配布資料、インタビュー内容等の記録を中心に参加者三名がまとめましたが、詳細内容は明治学院大学宮本美帆子さんの録音起こしの労によるものです。)

 

参考URL

1)  http://office.ilcso.illinois.edu/ILCSO.html

2)  http://library.ilcso.illinois.edu/ilcso/cgi-bin/welcome#start

3)  http://www.library.uiuc.edu/iris/

4)  http://www.library.uiuc.edu/acq/approvalplan.htm

5)  http://www.ala.org/ala/rusa/rusaprotools/referenceguide/guidelinesbehavioral.htm

6)  http://www.ala.org/ala/rusa/rusaprotools/referenceguide/virtrefguidelines.htm

7)  M. Kathleen KernWhat are they asking? An analysis of questions asked at in-person and virtual service points. 9th Annual Reference Research Forum June 21, 2003, Hilton: Governors General Room Toronto, Ontario, Canada

8)  http://images.library.uiuc.edu/projects/emblems/

9)  http://images.library.uiuc.edu/projects/motley/abmotle.htm

10)          http://www.eliillinois.org/ida/

11)          http://findit.ilsos.net/OCLC/

12)          http://images.library.uiuc.edu/

13)          http://images.library.uiuc.edu/dmrc/index.htm

14)          http://g118.grainger.uiuc.edu/linker/confei.asp

15)          http://g118.grainger.uiuc.edu/jnlfinder/jnlsearch.asp

16)          http://g118.grainger.uiuc.edu/linker/default.asp

17)          http://www.library.uiuc.edu/ugl/mrc/faq2.htm - Copyright