西洋古版本とは
各図書館によって「西洋古版本」の定義は異なるが、一般に年代で区分する場合、
ヨハン・グーテンベルク(Gutenberg, Johannes, ca.1400-146)が活版印刷術を発明した
15世紀中頃から19世紀はじめまでに印刷された活字印刷本を「西洋古版本」とすることが多い。
金属活字による活版印刷術が誕生する以前のヨーロッパでは、書物の製作は写字生の筆写によって行われていた。
その後、活版印刷術の普及により、ヨーロッパの書物は、金属活字と手引き印刷機(hand-press)を用いて製作されるようになった。
この写本から活字印刷本への移行期であった15世紀に、ヨーロッパで金属活字を用いて印刷された書物をインキュナブラ(incunabula、揺籃期本)と呼び、
書誌学上区別することが多い。
インキュナブラの製作では、中世写本が手本として用いられていため、写本とインキュナブラには共通点が多い。たとえば、写字生たちが使用していた 縮約形(contraction)や略字(abbreviation)も活字として取り入れられていた。また、余白の取り方、頭文字の装飾などのブックデザインの点に おいても写本時代の伝統が受け継がれている。
画像出典(上図):個人蔵
インキュナブラの所在調査は各国で行われてきた。その代表的な例に、Gesamtkatalog der Wiegendrucke(GW)がある。 GWは、1904年のドイツにおいて編纂が開始され、第1巻が1925年に刊行された。全体で27巻からなる膨大な目録であり、現在も刊行が続けられている。 2003年からは、本目録のデータベースがインターネット上で公開されている。
画像出典(左図):鶴見大学図書館所蔵
また、1980年から英国図書館は、簡素な目録記入をモデルとしたオンライン総合目録ISTC(Incunabula Short Title Catalog)の 公開を開始した。ISTCでは、著者、簡略タイトル、印刷者などから検索を行うことができる。
日本では、1995年に早稲田大学の雪嶋宏一によって『本邦所在インキュナブラ目録』が刊行され、各大学図書館が所蔵している インキュナブラの所蔵状況がまとめられている。
画像出典(右図):鶴見大学図書館所蔵
グーテンベルクの発明以降、西洋古版本の印刷には手引き印刷機が用いられていたが、19世紀初頭に動力印刷機(machine-press)が普及し始めると、 書物の製作工程に大きな変化がみられるようになった。
印刷においては、それまで職人の手作業であった印刷工程に、蒸気エンジンの導入が進められた結果、大量の印刷物を印刷することができるようになった。
画像出典(左図):会員撮影
製本作業においても機械が導入され、版元で統一的な装丁を施すクロス製本方式が行なわれるようになった。ヨーロッパ各国の印刷事情によって時間的な差があるため、 明確に区別できるわけではないが、1830年頃には、西洋古版本の時代が終焉したと考えられている1)。
画像出典(右図):鶴見大学図書館所蔵
前述したように、西洋古版本の印刷は手引き印刷機を用いた手作業で行われていたため、同じタイトルの同じ版であっても、
本を構成する折丁や組版などに違いがみられることがある。
そのため、西洋古版本の同定のためには、印刷の工程に起因する書誌的な特徴を調査し、個々のコピーについて、版、刷、発行、状態などを詳細に記述していく必要がある。
本サイトでは、西洋古版本を調査する上で、押えておくべき書誌学的な特徴を解説したうえで、具体的な書誌記述の方法を紹介していく。
参考文献